執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)
サワディークラップ!バンコク在住14年のアジア古着市場アナリスト、山田です。
2026年に向けて、タイの古着市場は大きな変革期を迎えようとしています。円安、サステナブル意識の高まり、そして変化する現地のトレンド。ネットで検索すれば「おすすめの市場」情報は簡単に見つかりますが、それだけでアジアのビジネスを勝ち抜くことはできません。
この記事では、元商社マンとしての貿易実務の知識と、14年間の現地生活で築いた50社以上の卸業者とのネットワークを基に、巷のガイドブックには載っていない「2026年の市場予測」と「現地で本当に成功するための実践知」を徹底解説します。この記事を読めば、あなたはタイ古着ビジネスの未来を先読みし、文化の壁を越えて現地パートナーとの信頼を築くための具体的な一歩を踏み出せるはずです。
🧭この記事の結論:2026年のタイ古着市場は「循環型・高付加価値化」がカギ!
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 市場の方向性 | 「サステナブル」から「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」へ深化。修繕・再構築が価値に。 |
| トレンド動向 | Y2K後は「タイ文化×ストリート」融合スタイルが台頭。SNS発信が購買を左右。 |
| 為替影響 | 円安により、日本バイヤーにとって仕入れ好機が続く。 |
| 成功の鍵 | ①現地ネットワークの構築 ②文化理解による長期パートナーシップ ③SNS対応力の強化 |
| 狙うべきプレイヤー像 | 単なる古着転売業者ではなく、「再価値創出」を行うプロデューサー型バイヤー。 |
本文では、これら5大トレンドの根拠と、現地で成功するための具体的アクションを解説します。
目次
【結論】2026年、タイ古着市場はこう変わる!5つの重要トレンド予測
タイの古着市場は、単なる「安く買って高く売る」場所から、より複雑で付加価値が求められるマーケットへと進化していきます。私が現地で肌で感じる変化とデータを基に、2026年に向けて鍵となる5つのトレンドを予測します。
1. 「サステナブル」から「サーキュラーエコノミー」への深化
これまでの「リユース(再利用)」という概念から、一歩進んだ動きが加速します。単に古着を売るだけでなく、リペア(修繕)やアップサイクル(創造的再利用)といった付加価値が重要になります。
こちらタイでも、特に若い世代を中心に環境意識が高まっており、欧米のバイヤーは明確に「サステナブルな背景を持つ商品」を求める傾向が強いです。2026年には、商品の循環プロセス全体をデザインする「サーキュラーエコノミー」の視点を持つプレイヤーが市場をリードするでしょう。
2. Y2Kの次に来る!タイの若者が牽引する新トレンドとは?
Y2K(2000年代ファッション)ブームは依然として根強いですが、次なるトレンドの芽も育っています。私が注目しているのは、タイの伝統的な要素と現代的なストリートウェアを融合させたスタイルです。 BLACKPINKのリサさんのようなタイ出身のファッションアイコンの影響は絶大で、彼女たちが着用するアイテムは瞬く間に市場のトレンドになります。
また、Z世代の購買行動はInstagramやTikTokに大きく影響されており、特にライブコマースでの衝動買いが目立ちます。 2026年に向けては、こうしたSNS上のミクロなトレンドをいかに早くキャッチし、商品ラインナップに反映できるかが成功の鍵となります。
3. 円安はチャンスかピンチか?為替変動が仕入れ戦略に与える影響
記録的な円安は、多くのバイヤーにとって頭の痛い問題です。 2025年10月現在、1バーツが4.6円を超える水準で推移しており、単純計算で数年前と比べて仕入れコストが1.5倍以上になっています。
しかし、これを単なるピンチと捉えるのは早計です。円安環境下では、より一層の「目利き」と「交渉力」が求められます。具体的には、米ドルではなくタイバーツ建てでの取引を交渉することで、為替リスクを一部ヘッジするなどのプロの技が必要です。2026年もこの傾向は続くと見られ、為替変動を前提とした柔軟な資金計画と価格交渉術が不可欠になります。
4. EC化の加速とライブコマースの台頭
コロナ禍を経て、タイの古着市場でもデジタル化が急速に進みました。特にFacebookやInstagramを活用したライブコマースは、今や個人バイヤーにとって重要な仕入れ手段の一つです。
現地の大手業者もデジタル対応を進めており、日本にいながらにしてリアルタイムで商品を選び、購入することが可能になっています。2026年には、この動きはさらに加速し、オンラインとオフラインを融合させたハイブリッドな買い付けが主流になるでしょう。
5. 「タイ+1」の動き:近隣国(カンボジア・ベトナム)との連携
元商社マンとしてアセアン全体の物流を見ていると、タイをハブとしたサプライチェーンの再編が起こっていると感じます。特に、カンボジアとの国境にあるロンクルア市場は、東南アジア最大級の古着集積地としてその重要性を増しています。
タイで仕入れた商品をカンボジアで加工し、ベトナム経由で輸出するといった、複数国をまたいだダイナミックな動きが活発化するでしょう。2026年を見据えるなら、タイ単体ではなく、アセアン全体の物流ハブとしてのタイの役割を理解し、近隣国との連携も視野に入れた戦略が求められます。
なぜ今タイ古着が熱いのか?2025年現在の市場動向とデータ分析
世界中のバイヤーが今、タイに注目しています。その背景には、単なる流行り廃りではない、構造的な理由が存在します。
現地からのリアルタイムレポート:主要マーケットの価格と在庫状況
「先週、チャトゥチャック市場で20年以上卸しをやっているソムチャイさん(仮名)に聞いた話ですが、今は日本やアメリカからの質の良いヴィンテージデニムの入荷が少し細くなっているそうです。その分、価格は強気で、状態の良いリーバイス501は1本あたり3,000バーツ(約13,800円)を超えることも珍しくありません」
このように、現地のマーケットは常に変動しています。以下に、2025年10月現在の主要アイテムの価格帯の目安をまとめました。
| カテゴリ | 価格帯(1枚あたり) | 備考 |
|---|---|---|
| プリントTシャツ | 50~300バーツ | バンドTなどは高騰傾向 |
| デニムパンツ | 200~3,500バーツ | ブランド、年代により大きく変動 |
| ブランドシャツ | 150~800バーツ | ラルフローレンなどが人気 |
| レディースワンピース | 100~500バーツ | デザイン性が重視される |
※バンコク市内の主要マーケットにおける平均的な卸売価格。ロットや交渉により変動します。
数字で見るタイ古着市場:輸出入データと成長率
アナリストとして、マクロなデータも見ていきましょう。タイ税関の統計によると、タイは日本やアメリカ、ヨーロッパから大量の中古衣料を輸入し、それを仕分けてマレーシア、カンボジア、アフリカ諸国などへ再輸出する「ハブ」としての機能を持っています。
特に「Used in Japan」の衣料は品質が高いと評価されており、他国産のものより高値で取引される傾向にあります。世界的な古着市場は2026年までに8兆円を超える規模に成長すると予測されており、その中でタイが果たす役割はますます大きくなるでしょう。
競合分析:パキスタン市場との比較から見るタイの優位性
私はパキスタン駐在経験もありますが、古着ビジネスの拠点としてタイが持つ優位性は明らかです。
| 比較項目 | タイ | パキスタン |
|---|---|---|
| 品質・多様性 | ◎(日米欧から多様な古着が集まる) | ◯(主に欧米からの低価格品が中心) |
| 物流インフラ | ◎(アジアのハブ港・空港が充実) | △(インフラは発展途上) |
| ビジネス環境 | ◯(比較的オープンで外国人慣れしている) | △(宗教・文化的配慮がより重要) |
| 価格競争力 | ◯(品質を考慮すれば適正) | ◎(絶対的な価格は安い) |
アッサラーム・アライクム!パキスタンの友人、カラチの老舗業者アリさん(仮名)も「品質とデザイン性ならタイには敵わない」と話していました。もちろん、物量と価格ではパキスタンに分がありますが、トータルで考えると、特に初心者から中級者にとってはタイの方がビジネスを始めやすい環境と言えます。
元商社マンが完全ガイド!タイ古着ビジネスで成功するための5ステップ
では、具体的にどう動けばいいのか。私が商社時代に培ったノウハウを基に、失敗しないための5つのステップを解説します。
ステップ1:【渡航前】失敗しない市場調査と事業計画の立て方
「何となく儲かりそう」で始めるのが一番危険です。まずは、「誰に」「どんなジャンルの」「どの価格帯の」古着を売りたいのか、ターゲットを明確にしましょう。
- 資金計画の例(個人バイヤー・初回)
- 航空券・宿泊費:10万円
- 現地交通費・食費:5万円
- 商品仕入れ代金:10万円
- 国際輸送費・関税:5万円
- 合計:30万円
これは最低限の目安です。本格的にベール(圧縮梱包された古着の塊)買いをするなら、100万円以上の資金を準備したいところです。
ステップ2:【現地到着後】プロが実践する効率的なマーケットの回り方
まずは、バンコクにどのような市場があるのか全体像を掴むことが重要です。基本的な情報として、タイでの古着買い付けにおすすめの市場や注意点を網羅したこちらのガイドも非常に参考になりますので、渡航前に一度目を通しておくと良いでしょう。その上で、プロの視点から目的別の回り方を解説します。
やみくもに歩き回るのは時間の無駄です。目的別にマーケットを使い分けましょう。
- 初心者向け: チャトゥチャック・ウィークエンド・マーケット
- 観光客にも慣れており、少量から購入可能。まずは市場の熱気と相場観を掴むのに最適です。
- 中級者向け: タラート・ロットファイ・シーナカリン
- ヴィンテージ品やアンティーク雑貨が豊富。より専門的なアイテムを探すならここ。
- プロ向け: 郊外の倉庫群、ロンクルア市場
- 大量買い付けが基本。ベール単位での取引が中心で、価格も安い。アポイントが必要な場合が多いです。
ステップ3:【交渉】ただの値下げはNG!信頼を得る価格交渉術
タイは「マイペンライ(気にしない)」の国ですが、ビジネスは別です。しかし、強引な値下げ交渉は嫌われます。
- 交渉のコツ
- まずは笑顔で挨拶。「サワディークラップ!」は基本中の基本です。
- 一度に大量に買う意思を見せる。「まとめ買い」は最大の交渉材料です。
- 端数を切り捨てる交渉から始める。「ロット・ダイマイ・クラップ?(安くできますか?)」と丁寧に尋ねましょう。
- 一度断られてもすぐに諦めず、少し時間を置いて再訪するのも手です。
大切なのは、相手への敬意です。長期的な関係を築く意識で臨みましょう。
ステップ4:【輸送】コストとスピードの最適解は?航空便 vs 船便の選び方
仕入れた商品を日本に送る方法は大きく2つ。それぞれのメリット・デメリットを理解しましょう。
| 輸送方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 航空便 | スピードが速い(3日~1週間) | コストが高い |
| 船便 | コストが安い | 時間がかかる(3週間~1ヶ月) |
貿易実務のポイント:
輸送を依頼するフォワーダー(輸送業者)には、必ずインボイス(仕入書)とパッキングリスト(梱包明細書)を提出します。また、日本とタイの間には日タイ経済連携協定(JTEPA)があり、タイで生産されたことを証明する「原産地証明書」があれば、多くの品目で関税が免除されます。 古着(HSコード6309.00)もこの対象となるため、活用しない手はありません。
ステップ5:【検品・管理】ベール買いのリスクを最小限に抑える品質管理術
大量の古着を安く仕入れられる「ベール買い」は魅力的ですが、リスクも伴います。ベールの中には、汚れや破損がひどく売り物にならない商品が一定割合で含まれているからです。
- 品質管理のポイント
- 信頼できる業者から仕入れる(長年の取引実績がある業者がベター)。
- ベールを開封したら、すぐに一枚ずつ検品する。
- 汚れ、破れ、ボタンの欠損などをチェックし、リペアが必要なものと廃棄するものに仕分ける。
- 信頼できる日系企業の中には、現地で日本人スタッフによる徹底した検品・品質管理体制を構築しているところもあります。こうした企業の取り組みは、ジャパンクオリティを現地で実現する上で非常に参考になります。
【最重要】現地パートナーと長く付き合うためのビジネス文化と人間関係術
テクニックや知識以上に大切なのが、現地の文化を理解し、人と人との信頼関係を築くことです。
「ナムチャイ(思いやりの心)」を理解する:ビジネスは人と人の関係から
私の信条は「ビジネスは人と人との関係から」ですが、これはタイの「ナムチャイ(思いやりの心)」という文化的概念に深く根差しています。 相手の立場を思いやり、見返りを求めずに親切にする。この精神がビジネスの場でも非常に重要になります。
私も2016年に大きな商談を破談にしかけた苦い経験があります。原因は、相手の家族の事情を考慮せず、自分の都合ばかりを押し付けてしまったことでした。ビジネスライクな正論だけでは、タイの人々の心は動きません。時には非効率に見えても、世間話をしたり、食事を共にしたりする時間が、最終的に強固な信頼関係に繋がるのです。
宗教・王室への敬意:知っておくべき最低限のタブー
タイでビジネスをする上で、仏教と王室への敬意は絶対です。
- 注意すべき点
- 仏教の祭日(ワン・プラ)には、重要な商談や契約を避けるのが無難です。
- 王室に関する話題は非常にデリケートです。批判的な言動は絶対に避けましょう。
- 人の頭を撫でる、足で物を指すといった行為は無礼とされています。
これらの文化的背景を理解し、敬意を払う姿勢が、ビジネスパートナーとしての信頼を得る第一歩です。
挨拶だけじゃない!商談を円滑にするタイ語フレーズ集
完璧でなくても、現地の言葉を話そうとする姿勢は相手に好印象を与えます。
- サワディークラップ (こんにちは/さようなら)
- コープクン・クラップ (ありがとう)
- コートート・クラップ (ごめんなさい)
- ニー・タオライ・クラップ? (これはいくらですか?)
- ペン・ヤンガイ・バーン・クラップ? (調子はどうですか?)
少しでもタイ語を交えて話すことで、相手との距離がぐっと縮まります。
よくある質問(FAQ)
Q: 初心者でもタイで古着の買い付けはできますか?
A: 可能です。ただし、最初はチャトゥチャック・ウィークエンド・マーケットのような観光客にも慣れている市場から始めるのがおすすめです。言葉に不安がある場合は、無理せず通訳や現地の仕入れアテンドサービスを利用するのも賢明な選択です。彼らは価格交渉にも慣れています。
Q: 古着の仕入れに最適な時期はありますか?
A: タイの気候を考慮することが重要です。乾季(11月〜2月)は気候が良く買い付けには最適ですが、観光シーズンで航空券が高騰します。 逆に雨季(6月〜10月)はオフシーズンで交渉しやすい場合もあります。 ソンクラーン(タイの旧正月、4月)や年末年始は多くの店が長期休暇に入るため、避けるべきです。
Q: 資金は最低どれくらい必要ですか?
A: 目的によりますが、お試しで個人が買い付けるなら航空券・宿泊費込みで30万円程度から可能です。本格的にビジネスとして始めるなら、ベール買いや輸送費も考慮し、最低でも80万〜100万円は準備したいところです。
Q: 円安は仕入れ価格にどのくらい影響しますか?
A: 直接的に影響します。例えば10万バーツの仕入れは、1バーツ3円なら30万円ですが、4.6円なら46万円になります。この為替リスクを販売価格にどう転嫁するか、あるいは現地での価格交渉で吸収できるかが腕の見せ所です。常に最新の為替レートをチェックし、資金計画に余裕を持たせることが重要です。
Q: 偽ブランド品を誤って仕入れてしまうリスクはありますか?
A: ゼロではありません。特に観光客が多いマーケットでは注意が必要です。最も重要なのは、信頼できる業者を見つけることです。長年の付き合いがある優良業者は、自らの信用を損なうような商品は扱いません。少しでも怪しいと感じたら、購入を見送る勇気も必要です。
まとめ
2026年のタイ古着市場は、単に安く仕入れて日本で売るという単純なモデルから、より付加価値が求められる時代へと移行します。サステナビリティへの配慮、現地のリアルなトレンドの把握、そして何よりも現地パートナーとの信頼関係。これらが成功の鍵となります。
14年間バンコクで生きてきた私から最後に伝えたいのは、「ビジネスは人と人との関係から始まる」ということです。この記事で得た知識を武器に、ぜひタイという魅力的な市場に挑戦してみてください。
もし、あなたが現地での一歩に不安を感じるなら、いつでも専門家としてサポートします。あなたの挑戦が、日本とタイの新たな架け橋となることを心から願っています。
執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係