執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)
サワディークラップ!バンコクの山田です。
古着ビジネスで頭を悩ませる最大のコスト、それは国際送料ではないでしょうか。「良い商品を安く仕入れても、送料で利益が吹き飛んでしまう…」そんな声をこれまで何百回と聞いてきました。
実は、多くの人が見落としている「第3の選択肢」を使えば、送料を30%以上削減できる可能性があります。それがLCL(混載便)です。しかし、ただ使えば安くなるわけではありません。そこには古着ビジネス特有の「コツ」と「落とし穴」が存在します。
14年間、タイの貿易の最前線で現地業者と渡り合ってきた私が、机上の空論ではない、明日から使える「生きたLCL活用術」を、バンコクの熱気と共にお届けします。
🚢 この記事の結論:古着の国際送料を30%削減するなら「LCL(混載便)」が最適解!
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 送料が高い原因 | クーリエ依存・FCLの早すぎる利用・現地業者任せによる「言い値」リスク |
| 解決策 | LCL(混載便)を活用し、必要な分だけスペースをシェア輸送 |
| 削減効果 | 平均で30〜40%の送料削減が可能(特に古着ビジネスで効果大) |
| 成功のコツ | ①信頼できる混載業者を選ぶ ②梱包は「容積」を最小化 ③船積書類の内容を明確化 |
| 注意点 | 最低輸送量・港湾費用・通関条件を事前に確認すること |
📦 本文では、タイから日本への実践手順・料金の仕組み・プロの裏ワザを詳しく解説しています。
目次
なぜあなたの送料は高いのか?古着輸送でよくある失敗パターン
まず、なぜ多くの人が送料で失敗するのか。こちらバンコクで数々の日本人バイヤーを見てきた経験から、典型的な3つのパターンをご紹介します。
クーリエ(国際宅急便)に頼りすぎている
手軽さからDHLやFedExなどのクーリエを使いがちですが、これが最初の落とし穴です。クーリエは書類や小さな荷物をスピーディーに送るのには最適ですが、重量だけでなく「容積」も料金に大きく影響します。
特に古着は、軽いのにかさばる商品の代表格。畳んだTシャツを段ボールに詰めただけでは、実重量よりはるかに大きい「容積重量」で計算され、請求書を見て愕然とすることになります。「先週も、初めてタイに買い付けに来た若いバイヤーさんが、クーリエの見積もりが想定の3倍になって頭を抱えていましたよ」と、チャトゥチャック市場の古着卸業者ソムチャイさん(仮名)も言っていました。手軽さは、時に最も高くつく選択肢になるのです。
FCL(コンテナ貸切)はまだ早いのに無理している
「ビジネスが軌道に乗ったら、いつかはFCLでガツンと仕入れたい」その気持ちは非常によく分かります。しかし、物量がコンテナを満たすほどではないのにFCLを借りてしまうと、コンテナ内の「空のスペース」にもお金を払うことになり、結果的に割高になります。
例えば、20フィートコンテナ(約33㎥)の半分しか荷物がない場合、単純に輸送効率は50%です。これは家賃20万円の倉庫を借りて、半分を空きスペースにしているのと同じ。その判断の甘さが、貴重な利益を蝕んでいきます。
現地業者任せで「言い値」になっている
私が最も警鐘を鳴らしたいのがこのパターンです。「送料はよく分からないから、仕入れ先の業者に任せておけば安心」と考えていませんか?もちろん良心的な業者もいますが、現地の商習慣を知らない日本人バイヤーに対して、本来の運賃に不透明な手数料を上乗せして請求するケースは後を絶ちません。
以前、私のクライアントが取引していた業者の見積もりを見せてもらったところ、相場の1.5倍近い送料が提示されていました。私が付き合いのあるフォワーダー(貨物輸送の専門業者)に確認したところ、すぐに適正価格が判明し、交渉の末、大幅なコストダウンに成功しました。情報弱者は、いつの時代もカモにされてしまうのです。アッサラーム・アライクム、ビジネスは常に公正な情報戦ですよ。
送料30%削減の鍵『LCL(混載便)』とは?FCLとの違いをプロが解説
では、どうすれば送料を最適化できるのか。その答えがLCL(Less than Container Load)、通称「混載便」です。
LCL(混載便)の基本の「き」
LCLとは、複数の荷主の荷物を一つのコンテナに「相乗り」させて輸送する方法です。 これにより、コンテナ1本を丸ごと借り切るFCL(Full Container Load)よりも、少ない物量から低コストで海上輸送を利用できます。
あなたの荷物は、まずCFS(Container Freight Station)と呼ばれる港近くの倉庫に運ばれます。 そこで他の荷主の荷物と一緒にコンテナに詰め込まれ、日本へ向けて出港します。日本に到着後、再びCFSで荷物が降ろされ、仕分けされた後にあなたの元へ届けられる、という仕組みです。
図解でわかる!LCLとFCLの決定的な違い
言葉だけでは分かりにくいので、古着ビジネスの観点からLCLとFCLを比較してみましょう。
| 比較項目 | LCL(混載便) | FCL(コンテナ貸切) |
|---|---|---|
| 輸送コスト | 少量では割安。物量(㎥)に応じて課金。 | 一定以上の物量があれば割安。コンテナ単位の定額。 |
| 物量の柔軟性 | ◎ 段ボール1箱からでも利用可能。 | △ コンテナを満たす物量が必要。 |
| リードタイム | △ CFSでの作業時間があるため、FCLより数日長い。 | ◯ CFS作業がないため、比較的早い。 |
| 貨物損傷リスク | △ 他の貨物との混載のため、梱包の工夫が必要。 | ◯ 自社の貨物のみで、リスクは低い。 |
コスト分岐点はどこ?「うちの物量ならどっち?」に答えます
「で、結局うちはどっちを使えばいいの?」という声が聞こえてきそうですね。一般的に、貨物の総容積が13㎥前後がLCLとFCLのコスト分岐点と言われています。
しかし、これはあくまで一般論。古着ビジネスでは「ベール」と呼ばれる圧縮梱包品を扱うことが多いですよね。高密度に圧縮されたベール品の場合、容積あたりの重量が大きくなるため、もう少し少ない物量、例えば10㎥あたりからFCLを検討し始めるのが私の経験則です。
山田の視点:
最終的には、必ず複数のフォワーダーからLCLとFCL両方の見積もりを取り、総額で比較することが重要です。「マイペンライ(気にしない)」でどんぶり勘定をするのではなく、電卓を叩いてシビアに判断しましょう。
【実践編】タイから日本へ!古着LCL輸送の全手順と料金の仕組み
ここからは、実際にタイからLCLで古着を送るための具体的な手順を解説します。
STEP1: 信頼できる現地フォワーダーを探す
LCL輸送の成否は、8割がここで決まると言っても過言ではありません。良いフォワーダーは、単に船を予約してくれるだけでなく、あなたのビジネスの強力なパートナーになります。
良いフォワーダーを見極めるポイント:
- レスポンスの速さと正確さ: 問い合わせへの返信が早く、内容が的確か。
- 見積もりの透明性: 料金内訳が明確で、不明瞭な項目がないか。
- 古着の取り扱い経験: 古着輸送特有の注意点を理解しているか。
- 日本語対応: 言葉の壁なく、スムーズにコミュニケーションが取れるか。
- トラブル対応力: 万が一の際に、迅速かつ誠実に対応してくれるか。
現地には日系のフォワーダーも数多く存在します。 例えば、現地スタッフと日本人スタッフの連携が取れている企業は、きめ細やかな対応が期待でき、評価が高い傾向にあります。
STEP2: 見積もり依頼とインボイス・パッキングリストの準備
フォワーダーに連絡し、見積もりを依頼します。その際、以下の情報を正確に伝えましょう。
- 貨物の内容: Used Clothing(古着)
- 荷姿と個数: 例)段ボール20箱、ベール10個
- 各梱包の3辺サイズと重量: 正確な容積(㎥)と重量(kg)を計算するため
- インコタームズ: 輸出者と輸入者の費用・責任範囲の取り決め(通常はEXWかFOB)
- 仕出地と仕向地: 例)タイ・バンコクの倉庫から、日本の横浜港まで
見積もりに納得したら、インボイス(商業送り状)とパッキングリスト(梱包明細書)を作成します。特に古着の場合、HSコード「6309.00」(中古の衣類)を正確に記載することが重要です。これを間違えると、新品の衣類と見なされ、不必要な関税がかかる可能性があります。
STEP3: CFS(コンテナ・フレート・ステーション)への貨物搬入
フォワーダーの指示に従い、指定された日時にCFSへ貨物を搬入します。現地のトラックを手配する必要がありますが、これもフォワーダーに依頼するのが一般的です。バンコクは世界有数の交通渋滞都市ですから、時間に余裕を持ったスケジュールを組むのが鉄則です。
STEP4: 海上輸送と日本側での輸入通関・引き取り
貨物がCFSでコンテナに詰められると、いよいよ船積みです。バンコクから日本の主要港までは、およそ10日~2週間。日本に到着後、フォワーダー(またはその日本のパートナー)が輸入通関手続きを行います。無事に輸入許可が下りたら、CFSから貨物を引き取り、指定の場所へ配送されます。
LCL料金の内訳を徹底解剖!知らないと損する追加費用とは
「見積もりより請求額が高い!」という事態を避けるため、LCL料金の主な内訳を理解しておきましょう。
- 海上運賃 (Ocean Freight): 港から港までの基本的な輸送費。
- CFSチャージ (CFS Charge): CFSで貨物をコンテナに詰めたり、降ろしたりする作業料。LCL特有の費用です。
- THC (Terminal Handling Charge): コンテナを船に積み降ろしする際のターミナル作業料。
- D/Oフィー (Delivery Order Fee): 船会社が貨物の引き渡しを指示する書類の発行手数料。
- その他: 通関料、国内配送料、燃料サーチャージ(BAF/FAF)など。
これらの項目が見積もりにきちんと記載されているか、必ず確認してください。
【プロの視点】古着ビジネスでLCLを成功させる3つの裏ワザ
さて、ここからは教科書には載っていない、私が現場で培ってきたLCL成功のための秘訣をお伝えします。
裏ワザ1: 「ベール化」で容積を制する者がコストを制す
海上運賃は基本的に容積(㎥)で決まります。つまり、いかに荷物を小さくするか、がコスト削減の最大の鍵です。そこで絶大な効果を発揮するのが「ベール化」、つまり専用の機械で古着を圧縮梱包することです。
Tシャツ100枚をただ段ボールに入れた場合と、ベール化した場合では、容積が1/3以下になることも珍しくありません。送料が1/3になるインパクト、想像できますか?私が取引しているタイの業者は、アイテムごとに最適な圧力を調整し、輸送中に荷崩れしない高品質なベールを作る技術を持っています。この一手間が、利益率を大きく左右するのです。
裏ワザ2: 貨物のダメージを防ぐ「梱包」と「海上保険」の知識
LCLのデメリットは、FCLに比べて貨物ダメージのリスクが若干高いことです。 他の荷主の貨物(時には重量物や液体)と同じコンテナに入る可能性があるためです。
これを防ぐには、まず頑丈な梱包が不可欠。ベール品であれば、ビニールで二重に包み、PPバンドで固く縛る。段ボールであれば、角を補強し、水濡れ対策を徹底する。そして、万が一に備え、必ず海上保険に加入してください。保険料はわずかですが、何かあった時の安心感が全く違います。私も過去に、他の貨物からの水濡れで商品をダメにしてしまった苦い経験がありますが、保険のおかげで損失を最小限に抑えることができました。
裏ワザ3: 現地フォワーダーとの「人間関係」が最強の武器になる
これが最も重要かもしれません。私の信条は「ビジネスは人と人との関係から」。これは万国共通です。
フォワーダーの担当者と良好な関係を築くことで、様々なメリットが生まれます。例えば、船のスペースが混み合っている時に優先的に予約を入れてくれたり、急なトラブルにも親身に対応してくれたり、有益な現地の情報を教えてくれたり。
難しいことではありません。メールの返信を早くする、感謝の言葉を伝える、たまにはタイ語で「コップンクラップ(ありがとう)」と挨拶を添える。タイには「ナムチャイ(思いやりの心)」という美しい文化があります。相手を思いやる気持ちが、ビジネスを円滑にし、最終的にあなたの利益となって返ってくるのです。インシャーアッラー(神の思し召しがあれば)、きっと良い関係が築けます。
よくある質問(FAQ)
Q: 個人事業主でもLCLは利用できますか?
A: はい、全く問題ありません。物量が少なくても利用できるのがLCLの最大のメリットです。私のクライアントにも個人で活躍されているバイヤーはたくさんいます。ただし、法人に比べて与信面で不利になる場合もあるため、支払条件などは事前にフォワーダーとしっかり確認することが重要です。
Q: 航空便やクーリエと比べて、どれくらい時間がかかりますか?
A: 例えばタイ・バンコクから日本の主要港まで、海上輸送だけであれば約10日~2週間が目安です。そこからCFSでの作業や通関手続きを含めると、貨物を受け取るまでにはドアツードアで約3~4週間見ておくと良いでしょう。クーリエの数日と比べると時間はかかりますが、その分コストメリットは絶大です。
Q: 古着の輸入に関税はかかりますか?
A: 中古の衣類(HSコード6309.00)は、基本的に関税は無税です。ただし、日本の消費税は課税されます。インボイスの記載が不正確だと、新品と見なされて高い関税率が適用されるリスクもあるため、先述の通り、正確な書類作成が不可欠です。
Q: 輸送中のトラブルが心配です。どんなリスクがありますか?
A: LCLの主なリスクは、①他の貨物との接触によるダメージや汚れ、②CFSでの荷役作業中の破損、③紛失・盗難です。 これらを防ぐためにも、先ほどお話しした「頑丈な梱包」「信頼できるフォワーダー選び」「海上保険」が三種の神器となります。私が経験したトラブルでは、コンテナ内の結露によるカビ被害がありましたが、これも防水梱包を徹底することで防ぐことができます。
Q: タイ以外の国(パキスタンなど)でもLCLの使い方は同じですか?
A: 基本的な流れは同じですが、国ごとに商習慣や規制、港湾事情が大きく異なります。例えば、私が駐在していたパキスタンでは、タイ以上に書類の正確性が厳しく求められ、些細なミスで通関が大幅に遅れることが日常茶飯事です。また、港のインフラも国によって差があるため、貨物の取り扱いが雑な場合もあります。その国の事情に詳しいフォワーダーを選ぶことが、タイ以上に重要になりますね。
まとめ
古着の国際送料を削減する鍵、LCL(混載便)の賢い使い方について、バンコクの現場から解説しました。
重要なのは、LCLが単なる「安い輸送手段」ではなく、「物量に合わせて輸送を最適化する戦略的ツール」だと理解することです。そして、その成功は、信頼できる現地のパートナー(フォワーダー)との人間関係にかかっています。
この記事で紹介した知識とノウハウは、あなたのビジネスの利益率を改善し、新たな可能性を切り拓くための一助となるはずです。アジアの古着市場は、正しい知識と良きパートナーがいれば、まだまだ大きなチャンスが眠っています。あなたの挑戦を、ここバンコクから応援しています。
執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係