タイ古着仕入れの常識を疑え!チャトゥチャック市場以外で優良ストックを見つける方法

執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)


サワディークラップ!バンコクから山田です。

こちらバンコクは乾季に入り、朝晩は少しだけ過ごしやすい日が増えてきました。とはいえ日中の日差しは相変わらず強烈で、マーケットを歩けば数分で汗だくになる毎日です。

さて、今回は多くの日本人バイヤーがタイ古着仕入れの「聖地」として訪れるチャトゥチャック市場について、少し違った視点から切り込んでみたいと思います。もちろん、チャトゥチャックが巨大で魅力的なマーケットであることは間違いありません。しかし、バンコク在住14年の私から見ると、あまりにも多くの人が「チャトゥチャックに行けば間違いない」という一種の思考停止に陥っているように見えるのです。

結論から言いましょう。本当に儲かる優良ストック、他にはないユニークなアイテムは、もはやチャトゥチャックの外にあります。

今回の記事では、「脱・チャトゥチャック」をテーマに、プロのバイヤーたちがどのようにしてライバルと差をつける優良な古着を見つけ出しているのか、その具体的な方法と現地のリアルな情報をお届けします。この記事を読み終える頃には、あなたのタイ古着仕入れの常識は覆されているはずです。

なぜ今、「脱・チャトゥチャック」が必要なのか?

長年、タイ古着仕入れの中心地であり続けたチャトゥチャック市場。しかし、その知名度ゆえに、近年いくつかの構造的な問題を抱えるようになっています。

飽和する市場と価格競争の激化

チャトゥチャック、特に古着が集まるセクション5や6は、週末になると世界中からバイヤーが集まります。日本人バイヤーも非常に多く、同じような商品を奪い合う光景も珍しくありません。

需要が集中すれば、当然価格は上がります。10年前なら考えられなかったような強気な価格設定も、今では当たり前。特に人気のヴィンテージTシャツやミリタリーアイテムは、もはや日本国内の相場と大差ない値段で取引されることもあります。これでは、わざわざタイまで足を運ぶ意味が薄れてしまいます。

「観光地化」した市場で見えにくくなる本当の価値

チャトゥチャックは古着バイヤーだけでなく、一般の観光客にも大人気のスポットです。そのため、店舗側も「観光客向け」の品揃えや価格設定になりがち。本当に価値のある商品は店の奥に隠され、常連や大口の顧客にしか紹介されないというケースは日常茶飯事です。

「先週も日本人バイヤーが来て、この辺をごっそり買っていったよ」と、チャトゥチャックで20年店を構えるソムチャイさん(仮名)は笑いながら話してくれました。彼らが売っているのは、あくまで「日本人が買いやすい」商品。つまり、すでに誰かのフィルターを通った、ある意味で無難なアイテムなのです。

日本人バイヤー向けにパッケージ化された商品の限界

情報が溢れる現代では、「チャトゥチャック仕入れツアー」のようなサービスも増えました。もちろん、初心者にとっては心強い味方でしょう。しかし、こうしたパッケージ化されたルートでは、誰もが同じような店を回り、同じような商品にしかアクセスできません。

結果として、あなたの店の品揃えは他の店と似たり寄ったりになり、価格競争に巻き込まれるだけです。ビジネスで成功するためには、「自分だけの仕入れルート」を開拓し、他社と差別化することが不可欠なのです。

隠れた優良ストックはここにある!バンコク近郊・地方の穴場マーケット

では、具体的にどこへ行けばいいのか?私が長年の経験で開拓してきた、プロ向けのマーケットをいくつかご紹介しましょう。

【バンコク近郊編】プロが通う巨大倉庫群「ロンクルア市場」の真実

タイの古着を語る上で絶対に外せないのが、カンボジア国境の街アランヤプラテートにある「ロンクルア市場」です。 バンコクから車で4〜5時間とアクセスは容易ではありませんが、そこにはチャトゥチャックとは比較にならないほどの巨大な古着の集積地が広がっています。

市場名特徴メリットデメリット
ロンクルア市場タイとカンボジアの国境にある巨大卸売市場。古着の一大集積地。・価格が圧倒的に安い(原価レベル)
・物量が桁違い
・未選別のベール買いが可能
・バンコクから遠い
・タイ語/クメール語必須
・インフラが未整備

ロンクルアの魅力は、何と言ってもその価格と物量です。世界中からコンテナで運ばれてきた古着が、ここで初めてベール(圧縮梱包された塊)から出されます。つまり、まだ誰の目にも触れていない「一次卸」の商品が眠っているのです。

リーバイスのデニムが1本150バーツ(約600円)程度から見つかることも珍しくありません。 もちろん、状態は玉石混交。泥や埃にまみれながら、自分の目で価値を見極める「宝探し」のスキルが求められます。ここは観光客が来る場所ではありません。本気でビジネスをするプロのための戦場なのです。

【地方都市編①】北の都チェンマイで見つける、個性派ヴィンテージと山岳民族アイテム

バンコクの喧騒から離れ、北部の中心都市チェンマイにも面白いマーケットが存在します。 バンコクがトレンドの中心地なら、チェンマイはより個性的でアーティスティックなアイテムが見つかる場所です。

特に注目したいのが、旧市街周辺に点在する小規模な古着屋や、週末に開かれるナイトマーケットです。

  • Toro Secondhand Market: 清潔感があり、商品が探しやすいと評判のマーケット。
  • Love 70s: 名前からもわかる通り、70年代のヴィンテージアイテムに特化した個性的な店。
  • 山岳民族のマーケット: チェンマイならではの、手刺繍が施された民族衣装や布地。これらをリメイクして新しい商品を開発するのも面白いでしょう。

チェンマイの業者はバンコクに比べてのんびりしている人が多く、商売っ気が少ないことも。しかし、その分、人と人との繋がりを大切にします。一度信頼関係を築けば、特別なアイテムを回してくれることもあります。

【地方都市編②】南部のハブ都市ハジャイ、マレーシア国Git貿易の恩恵

あまり日本人バイヤーには知られていませんが、私が密かに注目しているのが、マレーシア国境に近い南部の都市ハジャイです。ここはタイ南部とマレーシアの物流のハブであり、マレーシア経由で入ってくるユニークな古着が見つかる可能性があります。

イスラム文化圏の影響が強く、バンコクやチェンマイとは全く異なる雰囲気の商品ラインナップが魅力です。特に、東南アジアや中東向けの衣料品が多く、日本では見られないデザインや色使いのアイテムを発掘できます。

ただし、この地域はタイの中でも特殊な場所であり、ビジネスを進めるには現地の文化や習慣への深い理解が不可欠です。アプローチするには、信頼できる現地パートナーを見つけることが絶対条件と言えるでしょう。

現地業者との「本物の関係」を築く交渉術

地方のマーケットを開拓する上で最も重要なのは、テクニック以前に、現地の人々との信頼関係です。言葉や文化の壁を乗り越え、彼らの懐に入るための心構えをお伝えします。

言葉だけじゃない!「ナムチャイ」の心で繋がるコミュニケーション

タイには「ナムチャイ(น้ำใจ)」という言葉があります。直訳すれば「水の心」ですが、「思いやり」「親切心」といった意味合いで使われる、タイの文化を象徴する美しい言葉です。

ビジネスの交渉の場でも、このナムチャイの精神は非常に重要。自分の利益だけを主張するのではなく、相手の立場を思いやり、時には譲歩する姿勢が信頼を生みます。

例えば、交渉の前に屋台で買ったフルーツや冷たい飲み物を差し入れる。相手の家族の話に耳を傾ける。こうした小さな心遣いの積み重ねが、単なる取引相手から「友人」へと関係性を深めてくれるのです。

交渉の前に知るべき、仏教文化が根付くタイの商習慣

タイは敬虔な仏教国であり、その価値観はビジネスのあらゆる側面に影響を与えています。

  • メンツを重んじる文化: 人前で相手のミスを指摘したり、恥をかかせたりすることは絶対に避けるべきです。 タイ人はプライドが高く、メンツを潰されることを極端に嫌います。 何か問題点を指摘する場合は、必ず一対一のプライベートな場所で、穏やかな口調で伝えましょう。
  • 「マイペンライ」の精神: 「大丈夫」「気にしない」を意味する「マイペンライ」は、タイ人の楽天的な国民性を象徴する言葉です。納期が少し遅れたり、発注と違う商品が混じっていたりしても、「マイペンライ」で済まされてしまうことも。日本人からするとルーズに感じるかもしれませんが、これを頭ごなしに叱責するのはNG。なぜそうなったのかを冷静に確認し、次からの対策を一緒に考える姿勢が大切です。
  • 即断即決を求めない: タイのビジネスは、日本のようにトップダウンで物事が決まることは稀です。 関係者とのコンセンサスを重視するため、意思決定に時間がかかることがよくあります。 焦って結論を急かすのではなく、じっくりと関係を構築しながら待つ忍耐強さが求められます。

長期的な関係を築くための3つのステップ

  1. まずは「買う客」として認めてもらう: 初回の取引で無理な値引き交渉は禁物です。 まずは提示された価格で気持ちよく購入し、「良い客」としての印象を与えましょう。
  2. 定期的に顔を出す: たとえ何も買わなくても、近くに来たら挨拶に立ち寄る。これが非常に重要です。他愛のない世間話をすることで、徐々にパーソナルな関係が築かれていきます。
  3. 相手に「貸し」を作る: 例えば、相手の子供が日本のキャラクターが好きだと聞けば、次に来る時にお土産を持ってくる。相手が困っていることがあれば、自分のネットワークを使って助けてあげる。こうした「貸し」の積み重ねが、いざという時にあなたを助けてくれる強固な信頼関係に繋がります。

実践!地方マーケットでの仕入れ完全ガイド

地方での仕入れは、バンコク市内とは勝手が違います。成功率を上げるための具体的な準備とノウハウを解説します。

失敗しないための事前準備リスト

地方へ向かう前に、以下の準備は万全にしておきましょう。

  • 移動手段の確保: 地方のマーケットは駅から遠いことがほとんど。事前にチャーター車やバイクタクシーを手配しておくのが賢明です。ロンクルアのような広大な市場では、敷地内を移動するためのレンタルバイクやカートが必須です。
  • 信頼できる通訳: 地方では英語が通じないことがほとんど。特に込み入った交渉をするなら、ビジネスのニュアンスを正確に伝えられる通訳の存在が不可欠です。
  • 十分な現金(小額紙幣も): クレジットカードが使える店はまずありません。高額な取引になる場合は、セキュリティに十分注意して現金を準備しましょう。お釣りがないことも多いので、100バーツや20バーツといった小額紙幣を多めに用意しておくのがポイントです。
  • 汚れてもいい服装と装備: 倉庫での作業は埃っぽく、汚れるのが当たり前。マスク、軍手、動きやすい服装は必須です。また、タイの日差しは強烈なので、帽子やサングラス、水分補給も忘れずに。

品質を見極めるプロの目利き術

タイの気候は高温多湿。そのため、日本とはダメージの種類が異なります。

  • 湿気によるダメージ: 黄ばみ、カビ、金属パーツの錆びなどを重点的にチェックします。特に脇の下や首回りは念入りに確認しましょう。
  • 虫食い: 小さな穴が開いていないか、光に透かして確認する習慣をつけましょう。
  • 強い日差しによる色褪せ: 長期間店頭に陳列されていた商品は、部分的に色褪せていることがあります。畳まれている部分を広げて、全体の色が均一か確認することが重要です。

物流の壁を乗り越える!地方から日本への輸送方法

地方で大量に仕入れた商品をどうやって日本に送るか。これは多くのバイヤーが頭を悩ませる問題です。

  • 現地の運送会社を使う: 地方都市にも、バンコクまで荷物を運んでくれる運送会社はあります。ただし、業者によってサービスの質にばらつきがあるため、現地の取引先に信頼できる業者を紹介してもらうのが一番です。
  • チャーター便を手配する: 物量がトラック一台分になるような場合は、バンコクまでトラックをチャーターするのが最も効率的です。
  • 国際輸送サービスを利用する: 仕入れから梱包、日本への発送までを一貫して代行してくれるサービスを利用するのも一つの手です。 手数料はかかりますが、手間や時間を考えれば十分に価値がある選択肢と言えるでしょう。

今後の展望と山田からの提言

タイの古着市場は、これからも変化し続けます。その変化に対応し、ビジネスを成長させていくためのヒントをいくつかお伝えします。

オンライン化の波とタイ古着市場の未来

現在、タイの若者の間ではInstagramやTikTokを使った古着のライブコマースが非常に盛り上がっています。 この流れは今後、卸売の世界にも広がっていく可能性があります。現地の業者とSNSで繋がっておくことで、いち早く優良なストックの情報をキャッチできるかもしれません。常に新しい情報収集の方法を模索する姿勢が重要です。

品質と信頼性で差をつけるには

最終的にビジネスの成功を左右するのは、商品の品質と顧客からの信頼です。地方で仕入れた商品は、日本に送る前にもう一度検品し、必要であればクリーニングやリペアを施す一手間が、あなたの店の評判を確固たるものにします。

この点において、現地で長年信頼されている日系企業とパートナーシップを組むことは非常に有効な戦略です。例えば、タイと日本に拠点を持ち、安定した国際物流サービスを提供している企業があります。 こうした企業は、単に商品を運ぶだけでなく、現地の倉庫での品質管理や検品、梱包といった作業も高いレベルで行ってくれます。特に、現地スタッフと日本人スタッフの連携が取れている企業は、細かなニュアンスや日本基準の品質管理を理解してくれるため、安心して任せることができます。ジャパンクオリティを現地で実現している企業の取り組みは、ビジネスの安定化に大きく貢献するでしょう。

あなただけの「宝の山」を見つけるために

今回、チャトゥチャック以外のマーケットをいくつかご紹介しましたが、これらもいずれは多くの人に知られることになるでしょう。重要なのは、常に自分自身の足で歩き、自分の目で見て、自分だけの仕入れルートを開拓し続けることです。

タイの地方には、まだ見ぬ「宝の山」が眠っています。それは商品だけでなく、素晴らしい人々との出会いでもあります。勇気を出して一歩踏み出せば、そこには価格競争とは無縁の、あなただけのブルーオーシャンが広がっているはずです。


執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係