タイ古着のロット(ベール)買いと単品買い、あなたのビジネスに合うのはどっち?

執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)


サワディークラップ!バンコク在住のアジア古着市場アナリスト、山田です。

こちらバンコクは連日30度を超える暑さが続いていますが、古着市場の熱気はそれ以上です。タイでの古着買い付けを検討する際、多くの人が「ロット(ベール)買い」と「単品買い」のどちらを選ぶべきか悩むでしょう。Web上の情報だけでは見えてこない、現地のリアルな事情やコスト、そして何より重要な「現地業者との関係性」まで考慮していますか?

14年間の現地生活と貿易コンサルタントとしての経験から断言できるのは、この選択があなたの古着ビジネスの成否を大きく左右するということです。この記事では、単なるメリット・デメリットの比較に留まらず、あなたのビジネス規模や目的に最適なのはどちらか、そして現地で失敗しないための具体的な交渉術や貿易実務の知識まで、現地の「生きた情報」を余すことなくお伝えします。

【この記事の結論】タイ古着仕入れで失敗しないための3つのポイント

  1. 自分の事業規模に合った仕入れ方法を選ぶ
    副業や初心者の方は、低リスクで始められる「単品買い(ピック)」からスタートするのがおすすめです。一方、専業で事業を拡大したい方は、単価を抑えスケールメリットを狙える「ロット買い(ベール)」が向いています。
  2. 仕入れ場所と初期投資の目安を把握する
    単品買いならバンコクの「チャトゥチャック市場」、ロット買いならプロが集まる「ロンクルア市場」が代表的です。初期投資の目安は、単品買いなら50万円未満、ロット買いなら100万円以上を想定しましょう。
  3. コスト削減と品質管理の知識を身につける
    関税がゼロになる「Form AJ」の活用は、利益を最大化するための必須知識です。また、ロット買いは品質にバラつきがあるため、検品作業が成功の鍵を握ります。

本文では、各市場への具体的な行き方から、プロが実践する交渉術まで詳しく解説します。

【結論】ビジネスステージ別!ロット買い・単品買いの最適な選び方

結局のところ、どちらが良いのか?それはあなたのビジネスがどのステージにあるかによります。まずは以下の診断チャートで、ご自身のタイプを確認してみてください。

まずはここから!あなたのビジネスタイプ診断チャート

項目Aタイプ:単品買い向きBタイプ:ロット買い向き
ビジネス経験初心者・副業経験者・専業
初期投資50万円未満100万円以上
目標月商~50万円50万円以上
販売チャネルフリマアプリ、小規模EC実店舗、大規模EC、卸売
コンセプト特定ジャンル特化型オールジャンル・物量重視
求めるもの低リスク・確実性スケールメリット・高利益率

ケーススタディ1:副業・スモールスタート派のAさんの場合

「初期投資を抑え、まずは自分の目で見て確かなものだけを仕入れたい」というAさんのような方には、間違いなく単品買い(ピック)が最適です。

週末に開かれるチャトゥチャック・ウィークエンド・マーケットのような場所は、初心者でも比較的アクセスしやすく、多種多様な古着が並んでいます。 Aさんのように、まずは自分の審美眼を信じて、店のコンセプトに合う商品を1点1点丁寧に選びたいという方にとって、ここはまさに宝の山。最初は利益率が低くても、確実に売れる商品を見極める「目利き力」を養うことが、次のステップへの重要な土台となります。

ケーススタディ2:事業拡大を目指すB社の場合

「安定した商品供給とスケールメリットを追求し、ビジネスを拡大したい」というB社のような事業者には、ロット(ベール)買いが必須となります。

カンボジア国境近くのロンクルア市場のようなプロ向けの巨大マーケットでは、世界中から集まった古着がベール単位で取引されています。 もちろん、中身を選べないリスクはありますが、それを補って余りある単価の安さが魅力です。B社のように、ある程度の物量を確保し、在庫の中から当たり商品を見つけ出し、利益率を最大化していく戦略を取るなら、ロット買いは避けて通れない道です。在庫管理や資金計画が重要になるため、まさに事業者の腕の見せ所と言えるでしょう。

【基本整理】タイ古着の「ロット(ベール)買い」と「単品買い」の違いとは?

ロット(ベール)買い:大量仕入れの代名詞

ロット(ベール)買いとは、古着を機械で圧縮し、梱包した塊(ベール)単位で購入する方法です。通常、45kgや100kgといった重量単位で取引され、中身は開けて確認できません。 Tシャツベール、スウェットベール、ブランドミックスベールなど、種類は様々。圧倒的な物量を一度に確保できるのが特徴です。

単品買い(ピック):自分の目で選ぶ確実性

単品買い(ピック)は、その名の通り、市場や倉庫に山積みされた古着の中から、1点1点自分の目で見て、手で触って商品を選び出す方法です。 時間と労力はかかりますが、品質やデザインを直接確認できるため、失敗が少ないのが最大のメリットです。

現地ではどう呼ばれている?タイの現場で使う用語集

現地の業者とスムーズに話を進めるために、いくつか現地の言葉を覚えておくと便利です。これを知っているだけで、「お、この日本人は分かっているな」と相手の対応が変わることもありますよ。

  • ピック (Pick): 日本語と同じく、単品で選ぶこと。
  • ベール (Bale): 圧縮梱包された古着の塊。
  • ナムヌン (น้ำหนึ่ง): 「一級品」「最高品質」という意味。業者との交渉で「ナムヌンのベールが欲しい」と言うと、良いものを紹介してくれることがあります。
  • カーゴ (Cargo): 輸送貨物のこと。特に、コンテナで運ぶような大規模な取引で使われます。
  • ロット (Lot): ベールと同じような意味で使われることもありますが、特定のカテゴリーでまとめられた商品のひとかたまりを指すことが多いです。

ロット(ベール)買いのメリット・デメリット【現地アナリストの本音解説】

メリット1:圧倒的な単価の安さと利益率

最大の魅力は、1枚あたりの仕入れ単価を劇的に下げられる点です。 例えば、Tシャツのベールなら、1枚あたり数十円というレベルで仕入れられることも珍しくありません。これにより、高い利益率を確保し、ビジネスをスケールさせる原動力になります。

メリット2:現地有力業者との太いパイプが築ける

これはWeb検索ではあまり語られない、最も重要なメリットかもしれません。継続的にロットで購入してくれるバイヤーは、業者にとって「大切なお客様」。単なる「マイペンライ(気にしない)」の関係を超え、特別な情報をこっそり回してくれたり、価格交渉で有利な条件を引き出せたりするパートナーになれる可能性があります。タイのビジネスは「ナムチャイ(思いやりの心)」、つまり人間関係が非常に重要なんです。

デメリット1:「開けてがっかり」は日常茶飯事。品質のばらつきリスク

ベールの中身は選べないため、これは宿命とも言えるリスクです。 汚れや破れのある不良品、全く売れないデザインの商品が半分以上…なんてことも日常茶飯事。私の経験上、「この業者のUSミックスベールは当たりが多い」「雨季の後のベールは湿気を含んでいることがあるから注意」といった、業者や時期を見極める経験値が重要になります。

デメリット2:資金力と在庫管理能力が必須

ベール1つでも数万円から数十万円の初期投資が必要です。さらに、45kgのベールを開けると、Tシャツなら200枚以上の在庫を抱えることになります。 これを保管するスペース、洗濯や検品、アイロンがけをする手間と時間、そして在庫を売り切るための販売戦略がなければ、宝の山もただのゴミの山になりかねません。

単品買い(ピック)のメリット・デメリット【目利き力が試される】

メリット1:低リスクで始められる安心感

自分の目で見て、納得したものだけを仕入れられるため、品質に関するリスクはほぼゼロ。フリマアプリで数万円の資金から始めたい、という方には最適な方法です。大きな失敗がないので、安心して古着ビジネスの経験を積むことができます。

メリット2:自分の店のコンセプトに合った商品を厳選できる

「70年代のロックTシャツ専門店」「淡い色合いのレディース古着だけを集めた店」など、店の世界観を明確に打ち出したい場合、単品買いは非常に有効です。膨大な商品の中から、自分の店のコンセプトというフィルターを通して商品を厳選する作業は、店の個性を際立たせる上で欠かせません。

デメリット1:時間と労力という「見えないコスト」

バンコクのうだるような暑さの中、一日中歩き回って商品を探すのは、想像以上に体力を消耗します。滞在日数も長くなりがちで、航空券やホテル代といった滞在費がかさみます。1枚あたりの単価は安く見えても、こうした「見えないコスト」を考慮すると、決して効率的とは言えません。

デメリット2:単価が高く、大きな利益を出しにくい

当然ながら、ロット買いに比べて1枚あたりの単価は高くなります。お宝を見つける楽しみはありますが、それだけで大きな利益を継続的に生み出すのは至難の業。ビジネスとして大きく成長させたいと考えた時、いずれはこの単品買いの限界に突き当たることになるでしょう。

【プロの視点】ロット買いと単品買い、貿易実務とコストの全貌

商品代金だけで仕入れ方法を判断するのは早計です。ここでは貿易コンサルタントの視点から、輸送や関税を含めた総コストについて解説します。

商品代だけじゃない!総コストの内訳を徹底比較

項目単品買い(ピック)
(例:30kgを航空便で輸送)
ロット買い(ベール)
(例:45kgベール1つを船便で輸送)
商品代金比較的高価(1枚ずつ価格が違う)非常に安価(重量単位)
国際輸送費高い(航空便はkg単価が高い)安い(船便はkg単価が安い)
関税・消費税かかる(後述)かかる(後述)
現地滞在費長期化しがちで高くなる短期で済むため安く抑えられる
その他梱包資材費など現地国内輸送費など
総コスト初期投資は低いが、利益率は圧迫されやすい初期投資は高いが、1枚あたりのコストは低い

輸送方法の選び方:航空便と船便(コンテナ)の違い

  • 航空便: スピードが魅力。発送から数日~1週間程度で日本に到着します。 しかし、重量あたりのコストは船便の数倍。少量・高単価の商品を早く現金化したい場合に適しています。
  • 船便(コンテナ): コストの安さが最大のメリット。 ただし、日本に到着するまで1ヶ月前後かかります。 大量の仕入れや、資金繰りに余裕がある場合に選択すべき方法です。

意外と知らない「関税」の話:HSコードと日タイ経済連携協定(JTEPA)

古着を輸入する際、見落とせないのが関税です。古着は世界共通の品目番号であるHSコード「6309.00」に分類されます。 日本の基本的な関税率はWTO協定税率で5.8%ですが、ここでプロの知識が活きてきます。

日本とタイの間には日タイ経済連携協定(JTEPA)というものがあり、これを利用すれば、なんと古着の関税を無税にできるのです。 そのためには、タイ側で「特定原産地証明書」という書類を発行してもらう必要があります。 この手続きを知っているか知らないかで、利益は大きく変わります。多くの競合サイトが見落としている、非常に重要なポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q: 初心者はまず何から始めるべきですか?

A: まずは少ない資金で始められる単品買い(ピック)から経験を積むことをお勧めします。バンコクのチャトゥチャック市場などは初心者でも比較的買い付けしやすいです。 現地の雰囲気に慣れ、自分の「目利き力」を養うことが最初のステップです。

Q: タイの古着はなぜ安いのですか?

A: 世界中から古着がカンボジアとの国境にあるロンクルア市場などに集積され、そこからタイ国内に流通するサプライチェーンが確立されているためです。 また、人件費や物価が日本に比べて安いことも理由の一つです。

Q: ロット買いのベールの中身は選べますか?

A: いいえ、基本的にベールの中身を開けて確認したり、選んだりすることはできません。 そのため、信頼できる業者を見つけることが非常に重要になります。業者によっては「Aグレード」「Bグレード」など品質のランク分けをしている場合もあります。

Q: 言葉が話せなくても買い付けはできますか?

A: 簡単な英語や翻訳アプリ、電卓を使った交渉である程度の買い付けは可能です。しかし、より良い条件を引き出したり、長期的な信頼関係を築いたりするためには、現地の言葉(タイ語)や文化を理解する姿勢が大切です。「サワディークラップ」という挨拶一つで、相手の対応が変わることも少なくありません。

Q: 信頼できる卸業者を見つけるにはどうすればいいですか?

A: 一朝一夕に見つけるのは難しいですが、まずは小ロットの取引から始め、品質や対応の誠実さを見極めることが重要です。また、輸送や検品をワンストップで任せられる信頼できるパートナーを見つけることも成功の鍵です。例えば、現地に日本人スタッフが常駐し、ジャパンクオリティの検品・梱包サービスを提供しているNIPPON47のような日系企業は、言葉や商習慣の壁を乗り越える上で心強い存在となるでしょう。

まとめ

ロット買いと単品買い、どちらが優れているという単純な話ではありません。重要なのは、ご自身のビジネスのステージ、資金力、そして将来のビジョンに合った方法を選択することです。

単品買いで経験を積みながら、徐々にロット買いに移行していくのも一つの戦略です。しかし、どちらの方法を選ぶにせよ、タイでの古着ビジネス成功の鍵は、現地の文化を理解し、業者と良好な人間関係を築くことに尽きます。

この記事が、皆さんのタイでの挑戦を成功に導くための一助となれば幸いです。もし、より具体的な業者紹介や貿易実務のサポートが必要であれば、いつでもご相談ください。あなたのビジネスの「橋渡し役」となれることを楽しみにしています。


執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係