執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)
サワディークラップ!バンコクから山田です。
こちらバンコクは乾季に入り、朝晩は少しだけ過ごしやすい日も増えてきました。とはいえ日中の日差しは相変わらずで、マーケットを歩けばすぐに汗が噴き出してきます。そんな熱気あふれるタイの古着市場ですが、ここ1、2年で明らかに潮目が変わってきたのを感じます。これまで圧倒的な物量を誇ってきたアメリカ古着一強の時代から、新たな潮流が生まれつつあるのです。
その主役こそが、今回取り上げる「ユーロ古着」。
「タイでユーロ古着?」と意外に思われるかもしれません。しかし、現地のマーケットを注意深く観察すると、これまでTシャツやデニムが山積みだった場所に、フランスのワークジャケットやイギリスのトラッドなコートが並び始めているのです。この変化は、単なる一過性のブームではありません。タイの若者の価値観の変化、そして世界的な古着市場の構造変動が絡み合った、大きな地殻変動の始まりだと私は見ています。
今回は、なぜ今タイでユーロ古着が注目されているのか、その背景から具体的な仕入れの現場、そして日本のバイヤーがこの波にどう乗るべきかまで、バンコク在住14年の私の視点から徹底的に解説していきます。この記事を読み終える頃には、あなたの次の買い付け先の候補に、間違いなく「バンコクでのユーロ古着」が加わっているはずです。
目次
なぜ今、タイで「ユーロ古着」なのか?アメリカ古着市場からの地殻変動

長年、タイの古着市場はアメリカ古着、特にTシャツ、デニム、スウェットがその中心でした。しかし、その牙城が今、静かに、しかし確実に崩れ始めています。背景には、供給側と需要側、双方の構造的な変化があります。
アメリカ古着の供給過多と「食傷気味」な市場
タイが「世界中の古着のハブ」と呼ばれるようになって久しく、特にアメリカからの古着は圧倒的な量が流入し続けてきました。しかし、その結果として市場は飽和状態に陥っています。どこのマーケットに行っても似たようなプリントTシャツやリーバイスのデニムが並び、バイヤーも消費者も正直なところ「食傷気味」になっているのが現状です。
チャトゥチャック市場で15年以上アメリカ古着を扱ってきた卸業者のピヤさん(仮名)も、こう漏らしていました。
「最近は、同じようなTシャツをただ並べているだけじゃ、昔みたいには売れないね。特に日本のバイヤーは目が肥えているから、何か新しいものを探しているのがひしひしと伝わってくるよ」
加えて、近年の円安・ドル高は、アメリカからの仕入れコストを直撃しています。同じ予算でも買い付けられる量が減り、利益率が圧迫される。こうした経済的な要因も、バイヤーたちが新たな仕入れ先としてヨーロッパに目を向けさせる大きな動機となっています。
タイの若者のファッション観の変化:クリーン、そしてミニマルへ
需要側の変化も顕著です。特にバンコクの若者たちのファッションは、ここ数年で大きく変化しました。K-POPや日本のシティポップカルチャーの影響を受け、従来のラフでカジュアルなアメカジスタイルから、よりクリーンで洗練された、少しミニマルなスタイルへとシフトしています。
InstagramやTikTokを見ても、彼らが好んで着ているのは、シルエットの綺麗なシャツやスラックス、上品なジャケットスタイル。こうした流れの中で、アメリカ古着が持つ「ラフでカジュアル、機能性重視」という特徴よりも、ヨーロッパ古着が持つ「デザイン性が高く、シルエットが綺麗」という特徴が、今の気分にマッチしているのです。
特に、フランスのワークジャケットに見られるような、機能的でありながらどこか上品なデザインや、イギリスのトレンチコートが持つクラシカルな雰囲気は、タイのファッション感度の高い若者たちにとって非常に魅力的に映っています。
「一点モノ」としての価値:差別化を求めるバイヤーと消費者
アメリカ古着が大量生産・大量消費の文化を背景に持つ一方、ヨーロッパ古着は、より職人的なものづくりや、テーラリングの伝統に根差したアイテムが多く存在します。そのため、一つ一つのデザインが凝っていたり、現代の服にはないような繊細なディテールが施されていたりと、「一点モノ」としての価値が高いのが特徴です。
これは、他店との差別化を図りたい日本の古着バイヤーにとって、非常に大きな魅力となります。誰もが扱っている定番のアメリカ古着ではなく、まだあまり知られていないヨーロッパの隠れた名品を発掘できれば、それは強力な武器になります。
また、この「一点モノ」という価値は、個性を重視する消費者にも強く響きます。ファストファッションが溢れる現代において、「自分だけの特別な一着」を求める声は日増に高まっています。ヨーロッパ古着は、そうしたニーズに応える最適な商材と言えるでしょう。
バンコク現地レポート!ユーロ古着マーケット最前線
では、実際にバンコクのどこでユーロ古着が取引されているのか。ここでは、私が足繁く通う2大マーケットの最新状況と、具体的な人気アイテム、価格帯についてレポートします。
チャトゥチャック市場の変貌:ユーロ専門セクションの出現
言わずと知れた世界最大級のウィークエンドマーケット、チャトゥチャック。古着エリア(主にセクション5と6)は、長らくアメリカ古着の独壇場でした。しかし、先週訪れた際、その一角に明らかな変化が見られました。これまでバンドTシャツの店が並んでいた場所に、フランスのワークウェアやドイツのミリタリージャケットを専門に扱う店が数軒、軒を連ねていたのです。
店主のソムチャイさん(仮名)に話を聞くと、彼は2年前にアメリカ古着からユーロ古着専門に切り替えたと言います。
「最初は周りから『売れるのか?』と心配されたよ。でも、蓋を開けてみれば、特にヨーロッパや日本のバイヤーからの反応がすごく良い。アメリカものより単価は高いけど、しっかり価値を分かって買ってくれるから、やりがいがあるね。最近は韓国や香港からのバイヤーも増えてきたよ」
彼の店には、色落ち具合が絶妙なフレンチワークジャケットや、状態の良いドイツ軍のモールスキンパンツがずらりと並び、その品質の高さに驚かされます。もはやチャトゥチャックは「安価なアメリカ古着を大量に仕入れる場所」から、「質の良いユーロ古着を発掘する場所」へと変貌を遂げつつあります。
新たな聖地「バンスージャンクション(赤ビル)」の実力
もしあなたがプロのバイヤーで、より質の高いヴィンテージを探しているなら、次に向かうべきは「バンスージャンクション」、通称「赤ビル」です。チャトゥチャックに隣接するこのビルは、以前からアンティークやヴィンテージ家具で知られていましたが、今やタイで最も質の高いユーロヴィンテージが集まる場所として、世界中のバイヤーから注目されています。
3階から上のフロアに足を踏み入れると、そこはまさにヴィンテージの博物館。イギリスのBarbourジャケット、フランスの動物ボタンハンティングジャケット、イタリア海軍のセーラーパンツなど、マニア垂涎のアイテムが整然とディスプレイされています。
ここの特徴は、単なる古着ではなく、「ヴィンテージ」としてきちんと価値が付けられている点です。価格はチャトゥチャックより高めですが、その分、コンディションが良く、希少価値の高いアイテムに出会える確率が格段に上がります。ここで仕入れを行うことは、あなたの店の格を一段階引き上げることにも繋がるでしょう。
価格帯と人気アイテム:今、本当に売れるモノは何か?
では、具体的にどのようなアイテムが、いくらくらいで取引されているのでしょうか。私の最近の調査と取引実績から、特に注目すべきアイテムと、その卸売価格帯の目安を以下にまとめました。
| アイテム分類 | 具体的なアイテム例 | 卸売価格帯(THB) | 日本での売価(円)目安 | 特徴・人気の理由 |
|---|---|---|---|---|
| ワークウェア | フランス製ブルーワークジャケット(モールスキン、コットンツイル) | 800 – 2,500 | 8,000 – 25,000 | 独特の色落ち(インクブルー)とシンプルなデザインが人気。生地の種類や年代で価格が変動。 |
| ドイツ製ワークパンツ(モールスキン、ヘリンボーン) | 600 – 1,800 | 7,000 – 18,000 | 丈夫な生地と、ややゆったりとしたシルエットが現代のトレンドにマッチ。 | |
| ミリタリー | イギリス軍グルカショーツ、トラウザーズ | 1,000 – 3,000 | 12,000 – 30,000 | デザイン性が高く、ファッションアイテムとして確立。特にデッドストックは高値。 |
| フランス軍 M-47、M-64 フィールドジャケット | 1,500 – 5,000 | 15,000 – 50,000 | 機能美と洗練されたデザインで不動の人気。前期・後期モデルや状態で価格差大。 | |
| トラッド | イギリス製 Barbour オイルドジャケット | 2,000 – 6,000 | 20,000 – 60,000 | 日本での人気が非常に高い。リペア品や古いモデル(2ワラント、3ワラント)は特に価値あり。 |
| Burberrys’ トレンチコート(英国製) | 2,500 – 8,000 | 25,000 – 90,000 | 定番アイテムだが、状態の良い一枚袖や80年代以前のものは希少。 | |
| その他 | ドイツ製 フィッシャーマンシャツ | 400 – 1,200 | 5,000 – 13,000 | ヘンリーネックやスタンドカラーなどデザインが豊富。着心地が良く、男女問わず人気。 |
※上記はあくまで目安です。コンディション、サイズ、年代、希少性によって価格は大きく変動します。
この表からも分かる通り、アメリカ古着に比べて単価は高いですが、その分、日本での販売価格も高く設定でき、高い利益率が期待できます。重要なのは、アイテムの背景にあるストーリーや価値を理解し、それを顧客に伝えられるかどうかです。
文化的背景から読み解くユーロ古着ビジネスの勘所
タイでビジネスを成功させるためには、現地の文化や人々の価値観を深く理解することが不可欠です。これは古着の取引においても例外ではありません。特に、日本人の感覚とは異なる3つのポイントを押さえておく必要があります。
「マイペンライ」精神と品質基準のギャップ
タイを象徴する言葉「マイペンライ(大丈夫、気にしない)」。この大らかさはタイの魅力ですが、ビジネス、特に品質管理の面では注意が必要です。日本人バイヤーが「これは売り物にならない」と判断するような小さなシミやほつれも、現地の業者にとっては「マイペンライ」の範囲内であることが少なくありません。
ユーロ古着は、アメリカ古着に比べてデリケートな素材や繊細な作りのものが多いため、この品質基準のギャップはより大きな問題となり得ます。ベール(圧縮梱包された古着の塊)で購入した場合、開封してみたら想定以上にダメージ品が多かった、という話は日常茶飯事です。
だからこそ、自分の目で一点一点確認する検品作業が極めて重要になります。手間はかかりますが、この作業を怠ると、日本に持ち帰ってから頭を抱えることになります。
季節感のズレを乗り越える「リメイク」という付加価値
常夏の国タイでは、当然ながら秋冬物の需要はほとんどありません。そのため、ヨーロッパから輸入されたウールのコートや厚手のニットなどは、マーケットで比較的安価に放置されていることがあります。これは、日本のバイヤーにとっては大きなチャンスです。
しかし、ただ安く仕入れて日本で売るだけでは芸がありません。ここで現地の強みを活かすのが「リメイク」です。タイは縫製技術が高く、人件費も比較的安いため、質の高いリメイクを低コストで行うことができます。
例えば、
- ダメージのあるBarbourジャケットを、別の生地でリペアし、デザイン性を高める。
- 大きすぎるウールコートを解体し、ベストやバッグに作り変える。
- タイならではの刺繍やパッチワークを施し、全く新しい価値を持つ一点モノを生み出す。
こうした一手間を加えることで、季節感のズレというデメリットを、むしろ「独自の付加価値」へと転換させることが可能です。
信頼が全てを左右する「ナムチャイ」の商習慣
タイのビジネスは「人と人との関係」が非常に重視されます。タイ語で「ナムチャイ(思いやりの心、親切心)」という言葉がありますが、まさにこの精神が商習慣の根底に流れています。
初対面で無理な値引き交渉をしたり、高圧的な態度を取ったりするのは絶対にNGです。良い関係を築くためには、まずはこちらから心を開き、相手をリスペクトする姿勢が大切です。
- 簡単なタイ語で挨拶をする(「サワディークラップ!」)。
- 相手の家族や健康を気遣う言葉をかける。
- 日本の小さなお菓子を手土産に渡す。
こうした小さなコミュニケーションの積み重ねが、信頼関係を育みます。一度「良いお客さんだ」と認められれば、彼らは驚くほど協力的になってくれます。「山田さんのためなら」と、まだ店に出していない良い品を奥から出してきてくれたり、特別価格で譲ってくれたりすることも少なくありません。ビジネスは契約書の上だけで行われるのではなく、こうした人間関係の中で育っていくものだと、私はこの国で学びました。
【実践編】タイで成功するユーロ古着仕入れ・完全ガイド
さて、ここからはより具体的に、タイでユーロ古着を仕入れるための実践的なノウハウをお伝えします。これを読めば、あなたも明日から現地で動けるはずです。
渡航前に準備すべきこと
闇雲に現地へ飛んでも、効率的な仕入れはできません。成功は準備段階で決まります。
- 目的の明確化とリサーチ:
- 何を、どれくらい、どんな価格帯で仕入れたいのかを具体的にリストアップしましょう。「フレンチワーク」「UKミリタリー」など、ジャンルを絞ることで、現地での動きが格段にスムーズになります。
- Instagramや専門サイトで、バンコクのどの店がどんな商品を扱っているか、事前に徹底的にリサーチします。#bangkokvintage や #eurovintage などのハッシュタグが有効です。
- 予算計画と資金準備:
- 商品代金だけでなく、航空券、宿泊費、現地交通費、食費、そして最も重要な輸送費と関税まで含めた総予算を立てます。
- タイの古着市場は、今でも現金取引が主流です。特にマーケットではクレジットカードが使えない店がほとんど。日本円を現地でタイバーツに両替するのが最もレートが良いですが、ある程度の額をまとめて両替しておきましょう。
- スケジュールとアポイント:
- チャトゥチャックは週末のみ、バンスージャンクションは月曜定休など、マーケットによって営業日が異なります。滞在日程をしっかり計画しましょう。
- もし特定の倉庫や卸業者を訪ねたい場合は、事前にSNSのDMやメールでアポイントを取っておくことを強くお勧めします。突然訪問しても、担当者が不在だったり、対応してもらえなかったりすることがあります。
現地での交渉術と注意点:「ロット」と「関係性」が鍵
現地での価格交渉は、仕入れの醍醐味の一つですが、コツが必要です。
- まとめ買い(ロット)で交渉する:
一点だけで値切ろうとするのは、あまり良い印象を与えません。「これを5点買うから、全部でいくらにしてくれる?」といった形で、ある程度の量をまとめて交渉するのが基本です。業者側も、一度に多く買ってくれるバイヤーを歓迎します。 - 希望額を先に言わない:
まずは相手に「How much?」と聞き、提示された金額から交渉をスタートします。こちらから先に安すぎる金額を言うと、相手の気分を害し、交渉が決裂することもあります。 - 電卓を活用する:
言葉の壁がある場合は、お互いに電卓を叩いて金額を提示するのが最も確実でスムーズです。 - 宗教・文化への配慮:
タイは敬虔な仏教国です。寺院の近くでは肌の露出を控える、人の頭を触らない、足で物を指さないなど、基本的なマナーは必ず守りましょう。また、王室への敬意は絶対です。不敬と取られるような言動は厳に慎んでください。
品質管理と検品の極意:プロが見るべきポイント
前述の通り、検品は最も重要な作業です。以下のポイントを徹底的にチェックしてください。
- 明るい場所で確認する:
マーケットの薄暗い照明の下では、小さなシミや汚れは見逃しがちです。必ず店の外の明るい場所や、自然光の下で確認させてもらいましょう。 - チェックリスト:
- 汚れ・シミ: 襟元、袖口、脇の下は特に念入りに。古い油シミは洗濯しても落ちないことが多いです。
- ダメージ: 生地の破れ、擦り切れ、虫食い穴がないか。特にウール製品は要注意。
- パーツの欠損: ボタン、ジッパー、バックルなどがオリジナルで揃っているか。パーツ交換されていると価値が下がることがあります。
- 匂い: カビやタバコの匂いが染み付いていないか。鼻を近づけてしっかり確認しましょう。
- リペア跡: 不自然な縫い直しや、雑なリペアがされていないか。丁寧なリペアは価値になることもありますが、見極めが必要です。
- 信頼できるパートナーの重要性:
全ての検品を自分一人で行うのは限界があります。特に大量に仕入れる場合、品質管理の精度がビジネスの成否を分けます。現地で長年ビジネスを展開し、日本人スタッフと現地スタッフが連携して高い品質基準を維持している企業もあります。例えば、NIPPON47のような企業は、ジャパンクオリティの検品・管理ノウハウを現地で実現しており、その取り組みは多くのバイヤーから評価されています。信頼できる日系のパートナーを見つけることも、リスクを軽減する上で有効な手段です。
輸送・通関の落とし穴と、信頼できるパートナーの見つけ方
仕入れた商品を日本へ送る際にも、いくつかの注意点があります。
- 輸送方法の選択:
- 航空便: スピードは速いですが、コストが高いです。少量で、すぐに店頭に出したい商品向け。
- 船便: コストは安いですが、到着まで1ヶ月以上かかることも。時間に余裕がある大量の商品向け。
- 国際クーリエ(DHL, FedExなど): ドアツードアで追跡もでき安心ですが、最も高コストです。
- 関税と手続き:
古着の輸入には、消費税と、場合によっては関税がかかります。HSコード(品目を分類する番号)によって税率が異なるため、事前に日本の税関のウェブサイトなどで確認しておく必要があります。インボイス(仕入れ書)の作成など、煩雑な手続きも発生します。 - 物流パートナー:
これらの複雑な手続きを全て個人で行うのは非常に困難です。日系の物流会社や、輸出入代行業者に依頼するのが最も安全で確実です。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討しましょう。ここでも、現地に根ざし、日本とのやり取りに慣れているパートナーを選ぶことが成功の鍵となります。
今後の展望と日本市場へのインパクト
タイのユーロ古着市場は、まだ始まったばかりです。しかし、そのポテンシャルは計り知れません。最後に、この市場の未来と、日本のバイヤーが取るべき戦略について考察します。
ユーロ古着市場の成長予測とサステナビリティの追い風
世界的なサステナビリティへの関心の高まりは、古着市場全体にとって強力な追い風です。特に、質の良いものを長く使うというヨーロッパの文化に根差したユーロ古着は、この文脈において非常に強いメッセージ性を持ちます。
タイは、アジアにおける古着の流通拠点としての地位をさらに固めていくでしょう。今後、ヨーロッパの様々な国から、さらに多様な古着がタイに集まってくることが予想されます。それに伴い、市場はさらに成熟し、競争も激化していくはずです。
日本のバイヤーが取るべき差別化戦略
この新しい潮流の中で、日本のバイヤーが成功するためには、単に「珍しいものを安く仕入れる」という発想から脱却する必要があります。
- ストーリー性の付与:
その服が作られた年代、国、背景(ワークウェアなのか、ミリタリーなのか)といったストーリーを語れることが重要です。商品のタグに説明を加えたり、SNSで発信したりすることで、付加価値は格段に上がります。 - 専門性の追求:
「フレンチワーク専門」「UKミリタリー専門」など、ジャンルを特化することで、店の個性を際立たせ、熱心なファンを獲得することができます。 - スタイリング提案:
ユーロ古着を現代のファッションにどう取り入れるか、具体的なスタイリングをSNSなどで積極的に提案していくことが求められます。タイの若者の着こなしなども、大いに参考になるでしょう。
注意すべきリスク:偽造品と供給の不安定さ
市場が拡大する一方で、リスクも存在します。特に注意すべきは「偽造品(フェイク品)」です。人気のあるヴィンテージアイテム、例えばリーバイスの古いモデルや、有名ブランドのヴィンテージ品などは、精巧な偽物が作られ、市場に紛れ込んでいることがあります。真贋を見極める確かな目を持つこと、そして信頼できる業者からのみ仕入れることが、これまで以上に重要になります。
また、ヴィンテージアイテムは一点モノであるため、供給が不安定になりがちです。特定のアイテムに頼りすぎると、仕入れが途絶えた際に経営が立ち行かなくなる可能性があります。常に新しいジャンルを開拓し、仕入れのルートを複数確保しておくといったリスク管理が不可欠です。
まとめ
サワディークラップ。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
タイの古着市場で今まさに起きている「ユーロ古着」という新しい波。それは、単にアメリカ古着からの代替という単純な話ではありません。タイという国のダイナミズム、若者たちの価値観の変化、そして世界的なトレンドが交差する、非常にエキサイティングな現象です。
もちろん、そこには言葉の壁や文化の違い、品質管理の難しさといった課題も存在します。しかし、それを乗り越えた先には、まだ誰も見たことのない「お宝」が眠っている可能性に満ちています。この記事が、皆さんの新たな挑戦への一歩を踏み出すきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。
バンコクのマーケットの熱気は、実際に来てみなければ分かりません。ぜひ一度、ご自身の目でこの変化を確かめにいらしてください。その時は、マーケットのどこかでお会いできるかもしれませんね。
それでは、また次回のレポートで。
執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係