執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)
サワディークラップ!バンコク在住14年の山田です。
アジアからの古着輸入ビジネスで、多くの方が頭を悩ませるのが「関税」の問題です。「一体いくらかかるのか?」「どうすればコストを抑えられるのか?」という疑問は、利益に直結する重要なポイントですよね。実は、関税は単なる税率の知識だけでは不十分。現地の商習慣を理解し、正しい書類作成と交渉を行うことで、合法的にコストを抑えることが可能です。
この記事では、私が伊藤忠商事時代から現在まで、タイやパキスタンの現場で培ってきた経験を基に、古着輸入の関税計算の基本から、プロが実践する具体的な節税テクニック、そして意外な落とし穴までを徹底解説します。あなたのビジネスの利益を最大化するための「生きた情報」を、ここバンコクからお届けします。
目次
古着輸入の関税はいくら?まずは基本の計算方法を理解しよう
アジアから古着を仕入れる際、最初の関門となるのが関税と消費税の計算です。ここを正確に理解することが、ビジネスの利益計画を立てる上での第一歩。まずは基本をしっかり押さえましょう。
古着の関税率を決める「HSコード」とは?
輸入されるすべての商品には、国際的に定められた「HSコード(Harmonized System Code)」という番号が割り振られています。 これによって品目が分類され、関税率が決まる仕組みです。
古着ビジネスで最も重要なHSコードは「6309.00」です。 これは「中古の衣類その他の物品」を指すコードで、新品の衣類(主に61類、62類)とは異なる税率が適用されます。一般的に新品の衣類よりも低い関税率が設定されているため、古着ビジネスは関税面で有利と言えるのです。
ただし、革製品や毛皮などが含まれる場合は別のHSコードになる可能性もあるため、仕入れる商品の内容を正確に把握することが重要です。
関税・消費税の計算式と具体例
では、実際にいくら税金がかかるのか、具体的な計算方法を見ていきましょう。計算は以下の3ステップで行います。
1. 課税価格(CIF価格)の決定
まず、関税を計算するための元となる価格を算出します。これは「CIF価格」と呼ばれ、以下の合計で決まります。
課税価格(CIF価格) = 商品代金 + 日本の港までの送料 + 保険料
2. 関税額の計算
次に、算出した課税価格に関税率を掛けて関税額を求めます。古着(HSコード 6309.00)の場合、WTO協定税率が適用されることが多く、その税率は5.8%です。
関税額 = 課税価格(CIF価格) × 関税率(5.8%)
※計算結果の100円未満は切り捨て
3. 輸入消費税の計算
最後に、輸入消費税を計算します。注意点は、商品代金だけでなく、関税額も合計した金額に対して消費税がかかることです。
輸入消費税額 = (課税価格 + 関税額) × 消費税率(10%)
※課税価格と関税額の合計額の1,000円未満は切り捨て
【計算例】タイから10万円分の古着を輸入した場合
- 商品代金: 100,000円
- 送料: 20,000円
- 保険料: 1,000円
1. 課税価格(CIF価格)の計算
100,000円 + 20,000円 + 1,000円 = 121,000円
2. 関税額の計算
121,000円 × 5.8% = 7,018円 → 7,000円(100円未満切り捨て)
3. 輸入消費税の計算
(121,000円 + 7,000円) = 128,000円
128,000円 × 10% = 12,800円
支払う税金の合計: 7,000円(関税) + 12,800円(消費税) = 19,800円
個人輸入と商業輸入の関税の違いに注意
輸入には「個人輸入」と「商業輸入」の2種類があり、関税の計算方法が異なります。
- 個人輸入: 個人が自分で使用する目的での輸入。課税価格は「海外小売価格×60%」で計算されることが多い。
- 商業輸入: 販売などビジネス目的での輸入。課税価格は「商品代金+送料+保険料」の全額が対象。
古着ビジネスは当然「商業輸入」にあたります。 個人輸入と偽って申告すると後で大きな問題になるため、必ず正しい目的で申告しましょう。
【プロの実践】古着輸入の関税を抑える合法的な節税テクニック
関税の基本を理解した上で、次はプロが実践している合法的な節税テクニックをご紹介します。これらは私が現地で多くの取引先と関係を築く中で培ってきた、現場ならではのノウハウです。
テクニック1:EPA(経済連携協定)を活用して関税をゼロにする
日本は多くの国とEPA(経済連携協定)を結んでおり、条件を満たせば関税がゼロになる可能性があります。 例えば、タイとの間には「日タイ経済連携協定(JTEPA)」や「RCEP」などがあり、これらを活用できれば大きなコスト削減に繋がります。
しかし、ここでプロの視点が必要です。EPAを適用するには、その商品が協定の定める「原産品」であることを証明する「特定原産地証明書」が必要になります。 世界中から集められた古着の「原産地」を一点一点証明するのは、現実的にほぼ不可能です。
では、どうすればいいのか?
諦めるのはまだ早いです。現地業者との信頼関係が鍵となります。例えば、特定の工場から出る比較的新しい作業着の古着など、原産地が明確な商品をまとめて仕入れる交渉が可能な場合があります。長年の付き合いがある業者なら、「山田さんのためなら」と特別なロットを組んでくれることもあります。EPAは万能ではありませんが、可能性を探る価値は十分にあります。
テクニック2:輸送コストを最適化する「ベール梱包」という選択
「ベール梱包」とは、古着をプレス機で圧縮し、大きな塊(ベール)にする梱包方法です。 これには2つの大きな節税メリットがあります。
- 輸送効率の向上による送料削減:
古着はかさばるため、そのまま輸送するとコンテナ内に無駄なスペースが多く生まれます。 ベールにすることで積載効率が劇的に上がり、結果として1点あたりの送料を抑えることができます。 前述の通り、課税価格には送料も含まれるため、送料の削減は関税・消費税の削減に直結します。 - 税関でのスムーズな審査:
ベール梱包された貨物は、税関職員が一目で「大量の中古衣類」だと認識できます。 これにより、新品衣類との混同を避け、HSコード「6309.00」としての審査がスムーズに進む傾向があります。これは長年の経験から言える、実務上の大きな利点です。
テクニック3:税関をスムーズに通す「インボイス」の書き方
インボイス(仕入書)は、通関手続きで最も重要な書類です。 この書類の書き方一つで、通関がスムーズに進むか、あるいは保留となり余計な費用と時間がかかるかが決まります。
【プロが実践するインボイス作成のポイント】
- 具体的な品名を記載する:
単に「Used Clothing」と書くのではなく、「Used Men’s Cotton T-shirts」「Used Ladies Denim Pants」のように、種類、性別、素材などをできるだけ具体的に記載します。 - HSコードを明記する:
品名の近くに「HS Code: 6309.00」と記載しておくことで、税関職員の確認作業を助け、迅速な通関に繋がります。 - 現地業者への的確な指示:
こちらタイの業者さんは「マイペンライ(気にしない)」文化が根付いており、書類作成が大雑把なことがあります。 「よしなに」で頼むのではなく、こちらで作成したフォーマットを渡し、「この通りに記入してくれ」と明確に依頼することが重要です。事前にPDFでサンプルを送っておくと、間違いが格段に減ります。
アジアの現場から見る!関税トラブルを回避する交渉術と注意点
コスト削減を追求するあまり、道を誤ってしまうケースも少なくありません。ここでは、私がアジアの現場で見てきた関税トラブルの実態と、それを回避するための心構えをお伝えします。
絶対にダメ!「アンダーバリュー」の危険な罠
現地業者と親しくなると、「山田さん、関税が安くなるようにインボイスの金額を低く書いてあげるよ」と声をかけられることがあります。これが「アンダーバリュー」と呼ばれる、非常に危険な誘いです。
アンダーバリューは、実際の取引価格より低い金額で申告する行為で、明確な脱税であり犯罪です。 日本の税関は過去の膨大な輸入データを蓄積しており、商品の種類や重量からおおよその相場を把握しています。不自然に安い価格での申告は、ほぼ100%見抜かれると考えてください。
もし発覚した場合、以下のような重いペナルティが科されます。
- 追徴課税: 本来納めるべきだった税金に加え、重加算税や延滞税が課される。
- 貨物の没収: 最悪の場合、仕入れた商品がすべて没収されることもあります。
- 刑事罰: 悪質なケースでは、関税法違反として懲役や罰金などの刑事罰の対象となります。
「少しでも利益を増やしたい」という気持ちは分かりますが、アンダーバリューはビジネスそのものを失いかねない、絶対に手を出してはいけない禁断の果実です。
なぜ山田はアンダーバリューをしないのか?現地業者との信頼関係の重要性
私がアンダーバリューを絶対にしない理由は、法律違反だからというだけではありません。「ビジネスは人と人との関係から」というのが私の信条です。
目先の利益のために不正を依頼するバイヤーは、現地業者からどう見られるでしょうか?「この日本人は信用できない」と思われ、質の悪い商品を回されたり、良い情報がもらえなくなったりします。長い目で見れば、失うものの方が遥かに大きいのです。
適正な価格で正直に取引を続けることで、業者との間に「ナムチャイ(思いやりの心)」が生まれます。そうすると、「山田さんのために良いベールを確保しておいたよ」「新しい仕入れ先ができたから紹介するよ」といった、お金では買えない価値が手に入ります。これこそが、ビジネスを長期的に安定させる最大の「コスト削減策」だと私は確信しています。
【国別】タイ・パキスタンで注意すべき商習慣と文化的背景
アジアでのビジネスは、現地の文化や商習慣への理解が不可欠です。
- タイ:
「マイペンライ(気にしない、大丈夫)」の文化は、良くも悪くもビジネスに影響します。 時間や約束にルーズな面もあるため、口約束は禁物。 発注書やインボイスなど、重要なことは必ず書面で確認し、記録を残す習慣をつけましょう。相手を急かさず、笑顔で粘り強く交渉することが成功の秘訣です。 - パキスタン:
イスラム教が生活の中心にあるパキスタンでは、「インシャーアッラー(神の思し召しがあれば)」という言葉がよく使われます。これは「ベストを尽くすが、最終的な結果は神のみぞ知る」というニュアンスで、約束の不履行を正当化する意図はありません。
特に注意すべきは「ラマダン(断食月)」の期間です。 日中の飲食が制限されるため、ビジネスの効率が落ちることがあります。 この期間中の取引は、納期に余裕を持たせる、重要な決定は避けるなどの配慮が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q: 古着のHSコードは何ですか?
A: 一般的に、古着や中古の衣類はHSコード「6309.00」に分類されます。このコードで申告することで、新品の衣類よりも低い関税率が適用されるため、正確な申告が重要です。ただし、革製品などが含まれる場合は別のHSコードになる可能性があるので注意が必要です。
Q: 課税価格が20万円を超えると関税は高くなりますか?
A: はい、課税価格が20万円を超えるかどうかで適用される税率が変わる場合があります。20万円以下の場合は簡易税率が適用されることがありますが、20万円を超える商業輸入の場合は一般税率(WTO協定税率など)が適用されます。
Q: タイから輸入する場合、EPAを使えば常に関税は無料になりますか?
A: いいえ、必ずしも無料になるわけではありません。日タイ経済連携協定(JTEPA)などを適用するには、その古着が協定の定める原産地規則を満たしていることを証明する「特定原産地証明書」が必要です。 しかし、世界中から集まる古着の原産地を証明するのは現実的に非常に困難なため、適用できないケースがほとんどです。
Q: 現地業者にインボイスの金額を安く書いてもらうのは違法ですか?
A: はい、明確に違法です。これは「アンダーバリュー」と呼ばれる脱税行為にあたり、税関の調査で発覚した場合は、本来の税額に加えて重い追徴課税や延滞税が課されるだけでなく、悪質な場合は刑事罰の対象となる可能性もあります。 絶対に行ってはいけません。
Q: 送料や保険料も関税の計算に含まれるのですか?
A: はい、含まれます。関税を計算する際の基礎となる「課税価格」は、商品の代金だけでなく、日本に到着するまでの運賃(送料)と保険料を合計した金額(CIF価格)となります。 そのため、輸送コストを抑えることも節税の重要なポイントになります。
Q: 「ベール梱包」とは何ですか?節税になりますか?
A: ベール梱包とは、古着を種類別に分けずに圧縮して梱包する方法です。 これによりコンテナ内の積載効率が上がり、1点あたりの輸送コストを削減できます。 課税価格には送料も含まれるため、結果的に関税・消費税の節約に繋がります。また、税関に対して「中古衣類」であることを示しやすくなるというメリットもあります。
まとめ
サワディークラップ!今回は古着輸入の関税について、計算の基本からアジアの現場で使えるプロの節税テクニックまでを解説しました。
重要なのは、HSコードや計算式を覚えるだけでなく、EPAの可能性を探り、インボイスを正確に作成し、そして何より「アンダーバリュー」のような不正行為に手を出さないことです。14年間タイでビジネスをしてきて断言できるのは、現地業者との長期的な信頼関係こそが、最大のコスト削減であり、ビジネス成功の鍵だということです。
この記事で得た知識を武器に、ぜひあなたの古着ビジネスを成功させてください。もしアジアからの輸入で具体的なお悩みがあれば、いつでもご相談ください。
執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係