パキスタン古着市場の全貌:なぜ世界中の古着がカラチに集まるのか、その仕組みを解説

執筆者:山田雄介(アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント)


アッサラーム・アライクム。バンコクから山田雄介です。アジア古着マーケット情報局でライターをしています。

「世界中の古着の半分は、いったんカラチに集まる」――こう聞いて、すぐにイメージできる人は少ないかもしれません。私自身、伊藤忠商事のバンコク支店にいた頃にカラチ駐在員事務所長を兼務して現地に2年ほど住み、毎週のように選別工場と港のあいだを行き来しましたが、最初に見たときは正直「これは何かの間違いではないか」と思ったほどです。アメリカやヨーロッパ、日本、韓国、カナダから運ばれてきた何万トンもの服が、ランディの倉庫街で天井までうずたかく積まれている景色は、何度見ても圧倒されます。

ところが日本のバイヤーさんと話すと、「パキスタンが世界一の古着輸入国らしいですね」というところまでは知っていても、なぜカラチなのか、どんな仕組みで世界中から集められ、選別され、今度はアフリカへ送られていくのかまでは意外と知られていません。2025年10月にはパキスタン政府が古着輸入に対してRs200/kgの新税を導入し、現地はかなりざわついています。2026年4月現在、その影響もまだ続いている状況です。

この記事では、14年間アジアで貿易の現場に立ち続けてきた経験をもとに、パキスタン古着市場の全体像を、最新統計と現地のリアルな空気を交えながら解説します。「カラチに古着が集まる仕組み」を理解しておくと、日本から海外古着を仕入れようと考えている方はもちろん、サステナブルファッションに関心のある方にとっても、世界の繊維循環の構造が立体的に見えてくるはずです。

輸入額5億ドル超、前年比18%成長——数字が証明するカラチの圧倒的な集積力。低人件費・KEPZ・港・地理的優位の4条件が重なって初めて成立する、世界唯一のモデルです。

パキスタンが「世界の古着倉庫」と呼ばれる理由

まずは数字で全体像をつかみましょう。パキスタンの古着輸入量は、ここ数年で過去最高を更新し続けています。

過去最高を更新し続ける輸入量

パキスタン政府の最新統計によると、2024年7月から2025年6月までの会計年度(FY2024-25)における中古衣料の輸入額は、約5億1,100万ドルに達しました。前年度のFY2023-24は990,266トン、約4億3,400万ドルでしたから、金額ベースでおよそ18%の伸びです。2018年時点で年間約110万トンと既に世界1位だったところから、さらに右肩上がりが続いています。

主な輸入元はヨーロッパ、アメリカ、日本、韓国、中国、カナダの6カ国・地域です。ジェトロのYKKパキスタン、第3工場建設へ(パキスタン)によると、パキスタンの繊維産業全体は政府の輸出目標を支える中核セクターと位置付けられており、その裏側で古着の輸入・再輸出が一大産業として根を張っているのがパキスタンの構造です。

なぜ「インド」でも「バングラデシュ」でもなくパキスタンなのか

南アジアには繊維大国がいくつもあります。インドもバングラデシュも、人口・人件費・縫製能力という観点では古着の集積地になりうる条件を持っています。それでも世界中から古着が集まるのはパキスタン、しかもカラチ一極集中なのです。

これはひとつの要因では説明できません。私が現地で2年間暮らして肌で感じたのは、次の4つが重なって「カラチ以外では成立しないモデル」を作り上げているということです。

  • 圧倒的な労働コストの低さ(仕分け作業は手作業に依存するため)
  • カラチ港という南アジア有数の深水港の存在
  • KEPZ(カラチ特別輸出加工区)という無税ゾーンの制度設計
  • 中東・アフリカ・中央アジアへの地理的アクセス

順番に見ていきましょう。

なぜカラチなのか――4つの構造的優位性

圧倒的な労働コスト差

古着ビジネスの最大の特徴は、「機械化できない」という点に尽きます。Tシャツ1枚、ジーンズ1本を「どのブランドの、どの年代の、どのグレードか」と判断する作業は、いまだに人間の目と手でしか正確にはできません。AIによる画像認識も進んできてはいますが、シミやほつれ、襟元のヨレといった微妙な状態の判定は、現場ではまだまだ熟練のベテランに敵わないのが実情です。

つまり、古着産業は「とにかく人件費が安い場所で仕分けをした方が儲かる」という、極めてシンプルな原理で動いています。アメリカの選別工場のスタッフ時給は14〜15ドル、日給に換算すれば100ドル前後です。一方、パキスタン・カラチの選別工場で働く労働者の日給は、多めに見積もっても5ドル程度。為替を考えても20倍近い差があるのです。

これだけのコスト差があるからこそ、わざわざアメリカや日本で集めた古着を、コンテナに積んで何週間もかけてカラチまで運ぶ経済合理性が生まれます。「現地で仕分けるより、地球を半周させてからパキスタンで仕分けた方が安い」――これが古着ビジネスの根本にある不思議なロジックです。

KEPZ(カラチ特別輸出加工区)という制度

カラチに古着が集まる二つ目の理由は、制度設計です。KEPZ(Karachi Export Processing Zone)は、ランディ工業地区に隣接する経済特区で、空港まで7km、港湾まで20km以内という抜群の立地にあります。パキスタン輸出加工区庁(EPZA)の公式ページによると、Phase Iが211エーカー、Phase IIが94エーカーで、衣料品製造を中心にエレクトロニクスや化学品の工場も操業しています。

ここで重要なのが、KEPZ内では輸出入に関する税金がほぼかからないという点です。古着の選別業者は「いったん輸入してパキスタン国内で消費する」のではなく、「いったん輸入して仕分けてから別の国に再輸出する」という流れを取ります。この場合、KEPZの中で作業が完結している限り、関税の負担を最小化できるのです。

KEPZには現在、古着の選別ライセンスを持った業者が80社前後あると言われています。各工場で数百人規模が働いており、ゾーン全体では1万人以上が雇用されています。特筆すべきは、その約半数が女性であるという点です。パキスタン社会の中では、女性が安定した賃金を得られる職場は決して多くありません。古着産業はその意味で、社会的にも非常に重要な役割を果たしています。

カラチ港という南アジア有数のゲートウェイ

カラチ港は、パキスタン全体の貿易量の約6割を扱う巨大な港湾です。アラビア海に面しており、欧州やアフリカからの航路に対しても、東アジアからの航路に対しても、地理的にバランスのよい位置にあります。国土交通省のパキスタンの基礎情報でも、カラチが商業・物流の中心都市として紹介されています。

私が駐在していた頃、コンテナの陸揚げから選別工場までの所要時間は、順調にいけば2〜3日程度でした。これは他国の港と比べても十分に速い水準です。港から特区、特区から卸売市場、卸売市場から倉庫まで、すべてが20〜30kmの円の中に収まっているという、ある種の「コンパクトさ」がカラチの強みなのです。

多文化都市カラチが持つグローバル流通のしなやかさ

カラチはパキスタンの中でも特殊な街です。人口2,000万人を超える巨大都市ですが、ウルドゥー語に加え、英語、シンディー語、パシュトゥー語、グジャラート語など、複数の言語が日常的に飛び交います。宗教的にもイスラム教徒が大多数ですが、ヒンドゥー教徒、キリスト教徒、ゾロアスター教徒など、多様な背景を持つ人々が共存しています。

これが古着ビジネスにとっては大きな意味を持ちます。なぜなら、古着はアメリカ、ヨーロッパ、日本、中東、アフリカ――それこそ世界中のバイヤーやサプライヤーとやり取りする産業だからです。インシャーアッラー、と神にすべてをゆだねる商習慣がある一方で、契約書ベースの欧米流の取引もこなせる現地商人の柔軟さが、グローバルな取引を支えています。私自身、カラチで過去にイスラム教の祭日と欧米の決算期が重なって商談がうまくいかなかった経験もあり、文化と商習慣の双方を理解しないとこの市場では生き残れないと痛感しました。

カラチ古着業界の地理――どこで何が動いているのか

カラチで古着取引が動いている地区は、大きく3つに分かれます。それぞれ役割が異なるので、まずは地図を頭に入れておくと現地のビジネスがイメージしやすくなります。

地区名主な役割特徴
KEPZ(カラチ特別輸出加工区)輸入・選別・再輸出のハブ無税ゾーン。世界各国から原料が直接陸揚げされる
シェールシャー卸問屋街国内バイヤーや中小業者が集まる流通の心臓部
ランディ工業地区大規模倉庫街・サプライヤー拠点200〜300の倉庫が集積。選別後の在庫を保管

KEPZ――世界最大級の古着集積地

KEPZは、いわばカラチ古着産業の「正規ルート」です。輸入された原料の60〜70%が、まずKEPZの選別工場に入ります。ここでグレード分けされた古着は、品質の高いものが再輸出向け、品質の落ちるものが国内向けに振り分けられていきます。一部の業界レポートによれば、輸入の10〜20%程度が国内市場へ流れ、残りはアフリカなどへ再輸出されるとされています。

私がKEPZのある工場を訪ねたとき、入ってすぐに目に飛び込んできたのは、天井に届くほど積み上げられた圧縮ベールの山でした。1ベールは約45〜55kg。これがフォークリフトでひっきりなしに運ばれ、ベルトコンベアの上を流れていく間に、女性労働者たちが手際よくグレード分けをしていきます。手の動きは、見ているこちらが追いつかないほど速いのが印象的でした。

シェールシャー――現地流通の心臓部

シェールシャーは、カラチ市内の卸問屋街です。KEPZが「グローバルな動脈」だとすれば、シェールシャーは「ローカルな静脈」と言ってもいいでしょう。ここには国内バイヤー、地方都市から仕入れに来る業者、さらには日本や韓国のバイヤーも訪れます。

シェールシャーの面白いところは、デニムジャケットならデニムジャケットだけ、フリースならフリースだけ、というように、商品カテゴリ別に倉庫が並んでいる点です。選別済みの「製品」を、さらに細かく仕分けしてピックアップしたいバイヤーにとっては、文字通り宝の山に見えます。私が伊藤忠時代に通っていたワリーさんという卸業者の倉庫では、ミリタリージャケットだけで数千点の在庫を抱えていました。

ランディ工業地区――選別と倉庫のバックヤード

ランディはKEPZに隣接する大規模な工業地区で、200〜300とも言われる倉庫が集積しています。ここはどちらかというと、KEPZに入りきらない在庫を保管したり、再輸出向けの梱包・出荷の準備をしたりするバックヤードのような役割を担っています。シェールシャーが「対面取引の場」だとすれば、ランディは「物流のオペレーションが回る場所」と覚えておくとイメージしやすいです。

古着がカラチに到着してから世界へ出ていくまでの全プロセス

ここまでの話で、登場人物と地理は揃いました。次は、1着の古着がアメリカやヨーロッパで集められてから、最終的にバイヤーの手に渡るまでの全プロセスを追いかけてみましょう。

ステップ1:欧米のチャリティから「原料」が生まれる

欧米では、不要になった衣類はチャリティショップや回収ボックスに持ち込まれるのが一般的です。集められた服は、まず現地のテキスタイルリサイクル業者の倉庫に入ります。この段階の古着は、まだ何の仕分けもされていない「原料」と呼ばれる状態です。

リサイクル業者は、ある程度の量がまとまった段階で、これを大型のベール(圧縮梱包)にしてコンテナに積み、輸出します。アメリカからカラチへの輸送日数は、通常で30〜45日。これに港での通関やドレイ作業を加えると、おおむね2ヶ月弱を見込みます。

ステップ2:カラチ港からKEPZの選別工場へ

カラチ港に到着したコンテナは、税関を通過した後、トラックでKEPZの選別工場に運ばれます。前述のとおり、KEPZは無税ゾーンですから、ここでは一切の関税負担なく原料を受け入れられるのが強みです。

選別工場の中では、ベールが開封され、1着ずつ手作業で仕分けされていきます。仕分けの基準はおおまかに次のとおりです。

  • Aグレード:状態が良く、ブランドや希少性の高いもの。主にアフリカや欧米の二次市場へ
  • Bグレード:日常着レベルの状態。パキスタン国内、アフガニスタン、イランへ
  • Cグレード:シミや破損があり、そのままでは着られないもの
  • ウエス用:完全に着用不能で、雑巾や工業用ふきんに加工される

このグレード分けは、工場ごと、そしてその工場と取引する卸業者の指示によって細かく異なります。たとえば日本のバイヤー向けには、Aグレードの中でもさらに「90年代のアメリカ製ヴィンテージ」「ミリタリーのリアルもの」など、独自の細目で抽出してもらうこともあります。私自身、伊藤忠時代にこの「日本仕様」の選別ラインを立ち上げる交渉に何度も立ち会いました。

ステップ3:選別後の流れ――国内・近隣諸国・アフリカへ

選別された古着は、行き先別に次のように振り分けられていきます。

グレード主な行き先価格帯
Aグレードケニア、タンザニア、モザンビーク、欧米、日本
Bグレードパキスタン国内、アフガニスタン、イラン
Cグレードパキスタン国内の貧困層向け、ウエス加工へ

特に注目すべきは、アフリカ向けの再輸出規模です。複数の業界レポートによると、パキスタンは2023年に約809,000トンの古着を輸入し、そのうち約280,000トン(およそ35%)をアフリカ諸国へ再輸出しています。2021年の単年データでは、タンザニアへ約4,940万ドル、ケニアへ約5,040万ドルの中古衣料を輸出しており、ケニア市場では中国に次ぐ第2位の供給国の地位を占めています。

つまりカラチは、欧米から集まった古着をアフリカへ届けるための「中継ハブ」として、グローバルな繊維循環の真ん中に立っているのです。「Global Collection―Local Processing―Regional Distribution(世界で集め、現地で加工し、地域へ配る)」という言葉が、業界レポートでよく使われますが、これがパキスタン古着産業の本質を端的に表しています。

業界の共通言語――ベール、グレード、選別工場

カラチの古着業界に足を踏み入れると、独特の言葉が飛び交います。ここで主な業界用語を整理しておきましょう。

  • ベール:圧縮梱包された古着の束。1ベールは45〜55kgが一般的
  • 原料:仕分け前の古着。コンテナに混在した状態のもの
  • 製品:仕分け後の古着。グレードやカテゴリ別に整理された状態
  • ボロ屋:選別工場のこと。日本のリサイクル業界用語が現地でも使われる
  • ウエス:工業用の使い捨て雑巾。古着の最終的な終着点のひとつ

ベールの良し悪しを見極める3つのポイント

日本から仕入れに行く方からよく聞かれるのが、「現地で良いベールを掴むコツは何か」という質問です。私の経験から言えるのは、次の3点を必ずチェックすることです。

  • 圧縮の状態:均一で固く圧縮されているか。緩い場合はリパック品の可能性がある
  • ベールの開封確認:いくつかのベールを開けてもらい、中身の品質にばらつきがないか確認する
  • 工場の整理整頓:選別工場の床が整っているか、グレード分けの精度を見るうえで重要な指標

特に「リパック品」には注意が必要です。これは、いったん開封したベールに別の品質の古着を混ぜて再圧縮したもので、外見は普通のベールと見分けがつきません。長年現地でやっているバイヤーは、ベールの密度や角の形を見ただけで「これは怪しい」と分かるのですが、初めての方には難しいです。信頼できる現地パートナーを持つことが、結局のところ一番の防御策になります。

2025年10月の大変動――Rs200/kg課税が業界に何をもたらしたか

ここまではパキスタン古着市場の構造的な話でしたが、2025年に入って業界を揺るがす大きな出来事がありました。それが、パキスタン政府による古着輸入への新税導入です。

新税の概要

2025年10月18日付のDaily Pakistanの報道によると、パキスタン政府は古着の輸入に対し、1キログラムあたりRs200の新税を課す決定を下しました。それまでの輸入関税は衣類でRs36/kg、靴でRs66/kgでしたから、いきなり5倍以上の引き上げです。

業界・市場への影響

新税の影響は早くも価格に現れました。現地の業者によると、1点あたりRs500〜Rs1,500の値上げが発生しており、特に冬物のジャケット類で価格上昇が顕著だと報告されています。低所得層を中心に、これまで安価な古着で生活を支えてきた人々への打撃は大きく、業者団体は政府に対して税率の見直しを求めています。

私が2026年3月に現地のパートナーと電話で話したときも、「日本向けの良質なAグレードを集めるのが難しくなってきている」という声が出ていました。新税はKEPZ内で完結する再輸出には直接かかりませんが、サプライチェーン全体のコスト構造を押し上げているのは事実です。仕入れ単価の上昇は、最終的には日本のバイヤーや消費者にも影響してきます。

日本のバイヤーが取るべき対応策

この状況下で、日本から古着を仕入れる立場にある方はどう動くべきか。私からのアドバイスは、次のようなものです。

  • 信頼できる現地パートナーを通じてKEPZ経由の取引ルートを優先する
  • 単発の大量仕入れより、継続的な小ロット取引で品質を安定させる
  • 為替変動と税制変更のリスクを織り込んだ価格設計をする
  • 現地視察を定期的に行い、選別工場の状況を自分の目で確認する

特に最後のポイントは強調しておきたいです。カラチの古着市場は文字通り日々動いています。半年前の情報がもう古くなっていることも珍しくありません。年に1度でいいので、現地に足を運ぶことが結局一番のリスク管理になります。

パキスタン古着市場のこれから――日本のバイヤーが押さえておくべき視点

最後に、2026年4月時点でパキスタン古着市場が向かっている方向と、日本のバイヤーが押さえておくべき視点を整理して締めくくります。

「貧困」と「雇用」のあいだで揺れる産業

パキスタンの古着産業は、しばしば「貧困層に安価な衣類を供給する社会インフラ」として語られます。事実、輸入古着はパキスタンの貧困層が必要とする衣類の25〜30%を占めると言われています。同時に、KEPZだけで1万人以上、業界全体では10万人以上の雇用を生み出しており、特に女性の社会進出という観点でも重要な役割を果たしています。

一方で、Rs200/kg新税の導入のように、政府は税収確保や国内縫製業の保護のために、古着輸入に対する規制を強める方向に動いています。この「貧困層の生活」と「政府の税収」「国内産業の保護」という3つの要請のあいだで、パキスタン古着市場は今後しばらく揺れ続けるはずです。

アフリカ再輸出ハブとしての位置付けは強まる

一方で、アフリカ向け再輸出のハブとしてのカラチの地位は、当面ゆるぎません。ケニアやタンザニアの古着市場は、現地の若者の雇用と消費を支える重要な経済セクターであり、その大半を支えているのがパキスタン経由の古着です。この構造は、アフリカ各国が一斉に古着輸入を禁止しない限り、簡単には変わらないでしょう。

逆に言えば、日本のバイヤーがパキスタンから良質な古着を仕入れる際は、「自分はアフリカ向けの巨大な流通の脇道で取引している」という意識を持つと、現地のサプライヤーとの交渉感覚がぐっと掴みやすくなります。彼らにとって日本市場は重要ですが、それでもボリュームではアフリカに敵いません。

環境・サステナビリティの視点

近年、欧州を中心にファストファッションの大量廃棄が問題視されており、古着の越境取引が環境負荷の観点から議論されることも増えてきました。「先進国のゴミを途上国に押し付けているだけではないか」という批判は確かに無視できません。

ただ、私が現地で見てきた範囲で言えば、パキスタンの選別工場は単にゴミを受け入れているわけではなく、「人の手で再生可能なものとそうでないものを徹底的に分ける」仕事をしています。Cグレードの服も、ウエスや工業材料として最後まで使い切られていく仕組みがあり、ある意味では世界で最も丁寧な繊維リサイクルの現場とも言えるのです。この産業がなくなったら、欧米の古着の多くは行き場を失い、結果的に焼却や埋め立てに回ることになります。

サステナビリティという言葉を使うとき、私たちはどうしても「遠くの国の問題」として片付けがちです。しかし、日本人が今日着ているTシャツが、何年か後にカラチのランディの倉庫を経由してケニアの市場に並ぶかもしれないと考えると、世界はずっと近いものに感じられるのではないでしょうか。

まとめ

ここまで、パキスタン古着市場の全体像をお話ししてきました。ポイントを最後にもう一度整理します。

  • パキスタンは世界最大級の古着輸入国で、FY2024-25の輸入額は約5億1,100万ドルに達した
  • カラチに古着が集まるのは、人件費・港・KEPZ・地理的位置の4つが組み合わさった結果
  • KEPZ・シェールシャー・ランディの3地区が、カラチ古着産業の地理的な軸を成している
  • 古着は欧米から原料として運ばれ、グレード分けされ、Aグレードはアフリカや日本へ、Bグレードは国内や近隣諸国へと流れていく
  • 2025年10月のRs200/kg新税は業界に大きな影響を及ぼしており、日本のバイヤーも対応を迫られている
  • アフリカ向けの再輸出ハブとしての地位は当面揺るがず、日本のバイヤーはその巨大な流通の中で立ち位置を考える必要がある

カラチの古着市場は、日本にいるだけでは決して見えてこない、世界の繊維循環の最前線です。私が14年間アジアで暮らしてきて感じるのは、現地に足を運び、人と話し、文化と商習慣を体感することでしか掴めないものが、ビジネスにも人生にも確かにあるということです。インシャーアッラー、この記事を読んだ方の中から、いつかカラチの選別工場で一緒にベールを開ける仲間が出てくることを楽しみにしています。

サワディークラップ、また次の現地レポートでお会いしましょう。


執筆者プロフィール
山田雄介(42歳)
アジア古着市場アナリスト・貿易コンサルタント
タイ・バンコク在住14年目、元伊藤忠商事、パキスタン駐在経験あり
専門分野:タイ・パキスタン・バングラデシュの古着市場
現地ネットワーク:古着卸業者50社以上との取引関係