サワディークラップ!バンコク在住14年、アジア古着市場アナリストの山田雄介です。
先月、バンコクで仕入れた古着を日本に送った知り合いのバイヤーさんから、少し焦った声で連絡がありました。
「税関から『この貨物は中古品として認められない可能性がある』と言われた」というのです。
原因をたどると、申告したHSコードと貨物の実態が合っていませんでした。
HSコード(関税番号)は、貿易の世界で使われる「商品の住所」のようなものです。
ここを間違えると、関税額が変わるだけでなく、通関の遅延や事後の追徴につながります。
私は伊藤忠商事の繊維部門でタイ・パキスタンの調達に携わり、独立後も古着貿易のコンサルタントとして数多くの通関トラブルを見てきました。
この記事では、古着・中古衣料品のHSコードの調べ方と、現場で実際に起きる申告ミスの防ぎ方を、実務目線でお伝えします。
目次
HSコード(関税番号)とは?古着ビジネスの世界共通言語
HSコードの仕組みを知らないまま「業者に言われた番号」をそのまま使っているバイヤーさんは、実はかなり多いです。
まずは最低限の構造だけ押さえておきましょう。
6桁までは世界共通、その先は国ごとの細分
HSコードは、世界税関機構(WCO)の国際条約に基づく品目分類で、頭から6桁までは世界共通です。
2桁の「類」、4桁の「項」、6桁の「号」という順に、商品が細かく特定されていきます。
日本では、この6桁にさらに国内の統計細分を加えた9桁で輸出入申告を行います。
仕組みの全体像は、税関の「品目分類とHS」のページにまとまっているので、一度目を通しておくと理解が早いです。
つまり「6309」という4桁は世界中で通じますが、その先の細分は国によって違います。
タイの通関業者と日本の通関業者で桁数の話が噛み合わないのは、これが理由です。
もう1つ押さえておきたいのは、輸出側と輸入側で適用されるコード体系が別だという点です。
タイから日本へ古着を送る場合、タイ側の輸出申告にはタイの品目表が、日本側の輸入申告には日本の実行関税率表が使われます。
6桁までは共通なので大きくズレることは少ないものの、細分レベルの食い違いが検査のきっかけになることはあります。
現地の通関書類に書かれたコードを、日本側でそのまま使い回さないようにしてください。
古着・中古衣料品は「6309」に分類される
古着は、第63類の「6309.00(中古の衣類その他の物品)」に分類されます。
日本の実行関税率表では統計細分を含めて「6309.00.000」です。
対象は衣類だけではありません。
中古の毛布、ベッドリネン、そして石綿製以外の履物や帽子も、条件を満たせば6309に入ります。
古着ベールに靴やキャップが混ざっていても、同じ番号で申告できるケースが多いのはこのためです。
なお、着られないレベルのぼろ・ウエス類は「6310」という別の項になります。
選別後の残り物を輸出する場合は、6309と混同しないよう注意してください。
新品扱いになると税率がどう変わるか
6309と新品衣類では、日本輸入時の関税率がはっきり違います。
2026年7月版の実行関税率表から、代表的な例を比べてみます。
| 品目 | HSコード | 日本輸入時の関税率 |
|---|---|---|
| 古着・中古衣料品 | 6309.00 | 基本7%・WTO協定5.8% |
| 新品の綿製Tシャツ(なせんしたもの等) | 6109.10 | 基本10.9% |
| ぼろ・ウエス類 | 6310 | 無税 |
古着の5.8%に対し、新品の綿Tシャツは10.9%。
「中古と認められるかどうか」で、納める関税が倍近く変わる計算です。
だからこそ税関は、6309の申告に対して「本当に中古か」を厳しく見ます。
次の章で説明する2つの条件が、その判断基準です。
古着が「6309」と認められるための2つの条件
関税率表の第63類には「注3」という規定があり、6309に分類できる貨物の要件が明文化されています。
税関が公開している第63類の解説(PDF)に原文がありますが、実務で効いてくるのは次の2点です。
条件1:使い古したものであることが外観から明らか
1つ目は「使い古したものであることが外観から明らかであること」です。
着用感やスレ、色落ちなど、見た目で中古と分かる状態が求められます。
ここで問題になるのが、タグ付きのデッドストックです。
未使用で新品同様のものは、たとえ何十年前の製品でも「外観から使い古したと明らか」とは言えません。
私がカラチ駐在時代に扱った貨物でも、デッドストック混じりのベールが検査対象になり、通関に2週間余計にかかったことがあります。
このとき痛感したのは、判断するのは自分ではなく税関だということです。
売り手にとっては「未使用の掘り出し物」でも、分類の世界では「新品」。
現場の感覚と法律上の定義がズレる場面こそ、トラブルの温床になります。
条件2:ばら積み・ベール・サック等の包装で提示
2つ目は「ばら積み又はベール、サックその他これらに類する包装で提示すること」です。
古着貿易の現場でベール(圧縮梱包)が標準なのは、輸送効率だけでなく、この分類要件とも整合するからです。
逆に言うと、きれいに畳んで1点ずつ個装した状態は、この条件から外れる可能性があります。
「丁寧に梱包したほうが印象が良いだろう」という善意が、かえって分類上のリスクになる。
このあたりが、HSコードの面白くも怖いところです。
ヴィンテージ古着の落とし穴
単価の高いヴィンテージは、特に注意が必要です。
状態の良い個体を選び、1点ずつポリ袋に入れ、インボイスにも1点ごとの明細を書く。
ビジネスとしては正しい丁寧さですが、分類上は「中古品らしくない提示方法」になり得ます。
こうした貨物は、素材や編み方に応じて第61類・第62類、つまり新品と同じ扱いで分類される可能性があります。
高価なヴィンテージを継続的に扱う方は、自己判断せず、後述する事前教示制度で税関の見解を取っておくのが安全です。
HSコードの調べ方:現役コンサルが使う4ステップ
では、実際にHSコードを調べる手順です。
私がクライアントの案件で確認するときも、基本はこの流れです。
| ステップ | やること | 使うツール |
|---|---|---|
| 1 | 該当しそうな類・項の当たりをつける | Webタリフ(実行関税率表) |
| 2 | 類注・解説で分類条件を確認する | 税関の関税率表解説 |
| 3 | 過去の分類事例を検索する | 事前教示回答データベース |
| 4 | 文書で税関の公式見解をもらう | 事前教示制度 |
ステップ1:Webタリフ(実行関税率表)で当たりをつける
まず、税関が公開している「実行関税率表(Webタリフ)」で、商品が属しそうな類を探します。
古着なら第63類、新品扱いの可能性があるなら第61類・第62類も併せて見ます。
このとき、税率の欄まで必ず確認してください。
基本税率・WTO協定税率のほか、EPA(経済連携協定)の税率欄もあり、仕入国によっては税率が下がる場合があります。
たとえばタイやベトナムはEPAの相手国なので、原産地の要件を満たし所定の手続きを踏めば、協定税率よりさらに有利になる可能性があります。
古着の原産地の考え方は少し特殊なので、ここは通関業者と相談しながら進めるのがおすすめです。
ステップ2:類注・解説で分類条件を必ず確認する
番号を見つけて終わり、にしないことが大切です。
先ほどの第63類注3のように、分類の可否を決める条件は「注」や「解説」に書かれています。
表の品名だけ見て「中古の衣類だから6309でOK」と判断するのは、住所の番地だけ見て建物を確かめないようなものです。
慣れないうちは、通関業者に「この類注の解釈で合っていますか」と確認するだけでも、ミスはかなり減ります。
ステップ3:事前教示回答の公開データベースで過去事例を探す
税関のサイトには、過去の事前教示回答を検索できるデータベースがあります。
品名のキーワードで検索すると、似た商品が実際にどう分類されたかを見られます。
「自分の商品と似たケースが既にあるか」を知るだけで、判断の精度は大きく上がります。
無料で使えるのに、活用しているバイヤーさんが少ないのはもったいないです。
使い方は簡単で、「中古」「衣類」といったキーワードや関税率表番号で絞り込むだけです。
回答には分類の理由も書かれているので、税関がどこを見て判断しているのかという「思考の型」まで学べます。
私も新しいカテゴリの商品を扱うときは、まずここを見るところから始めます。
ステップ4:迷ったら事前教示制度で文書回答をもらう
それでも判断に迷う場合は、税関の事前教示制度を使います。
輸入前に商品情報を添えて照会すると、品目分類や税率について税関から回答をもらえる制度です。
文書による回答は、輸入通関の審査で原則3年間尊重されます。
制度の詳細は税関の「カスタムスアンサー1202」で確認してください。
電話での相談も可能ですが、あくまで参考扱いなので、継続的に扱う商品は文書で取るのが鉄則です。
申請は書面のほか電子窓口からも行え、費用はかかりません。
商品の写真や素材構成など、判断材料になる資料を揃えて照会するのがコツです。
回答までは一定の日数がかかるため、初回の輸入スケジュールには余裕を持たせておきましょう。
3年間有効な「お墨付き」が無料で手に入ると考えれば、使わない理由がない制度だと私は思っています。
申告ミスを防ぐ実践的なコツ:現地14年で見てきた失敗から
最後に、コードの調べ方以前の「そもそもミスを起こさない」ための実務のコツです。
どれも、実際にトラブルになった案件から学んだものです。
インボイスと梱包で「中古」を一目で分からせる
税関職員は、書類と現物の両方を見ます。
インボイスの品名は「Used Clothing」のように中古であることを明記し、HSコードも併記しておきましょう。
梱包はベールが基本です。
バンコクの取引先の倉庫では、圧縮機でベールを組み、外装に重量と「USED」の表示を入れるのが標準になっています。
書類・梱包・現物の3つが「中古の衣類」で一致していれば、検査になっても話が早いです。
出荷前には、最低限次の点を確認しておきましょう。
- インボイスの品名に「Used」の記載があるか
- 申告予定のHSコードがインボイスに併記されているか
- 梱包がベール・サック等になっているか(個装になっていないか)
- 書類上の数量・重量が現物と一致しているか
新品・未使用品を混ぜない
現場で一番多いミスが、これです。
仕入先のロットに新品のデッドストックやサンプル品が混ざったまま、全量を6309で申告してしまうケースです。
悪意がなくても、事後調査で発覚すれば追徴の対象になり得ます。
デッドストックを扱いたい場合は、貨物を分けて、新品として正しい番号で申告してください。
面倒に見えて、結局これが一番安くつきます。
背景として知っておいてほしいのが、現地の商習慣です。
タイの仕入先はおおらかな気質の方が多く、「タグ付きが数枚混ざったくらいマイペンライ(大丈夫)」という感覚で梱包されることが珍しくありません。
現地の感覚を責めても仕方がないので、買い付け時の検品で自衛するのが現実的です。
私は取引先に「新品が混ざっていたら別ベールに分けてほしい」と最初に伝え、検品リストにも項目を入れてもらうようにしています。
通関業者・フォワーダー任せにしない
「HSコードは通関業者が決めてくれるから大丈夫」という声もよく聞きますが、これは半分だけ正解です。
通関業者は書類と経験に基づいて最適な番号を提案してくれますが、申告内容の責任を最終的に負うのは輸入者本人です。
特に古着は、書類だけでは中古かどうか判断しきれない商品です。
貨物の実態を一番知っているのは、現地で買い付けたあなた自身。
「この貨物にはデッドストックが何%混ざっている」「ベール梱包で個装はない」といった情報を先回りして共有すれば、通関業者も正確な判断ができます。
私の経験では、通関トラブルの多くは業者の能力不足ではなく、輸入者と業者の情報共有不足から起きています。
ビジネスは人と人との関係から、というのが私の信条ですが、通関業者との関係もまったく同じです。
仕向国側の規制も必ずセットで確認する
HSコードの確認と同時に、相手国の輸入規制も見ておく必要があります。
たとえばJETROの貿易・投資相談Q&Aにあるとおり、中国は衛生・環境上の理由から中古衣料品(HS6309)の輸入自体を禁止しています。
バングラデシュのように、承認された業者しか輸入できない国もあります。
「日本側の通関が通れば大丈夫」ではないのが、古着貿易の難しさです。
私たちアジア古着マーケット情報局でも、国別の規制動向は継続的に追いかけていますし、NIPPON47のように現地買い付けから輸出手続きまでサポートする事業者に相談するのも一つの手です。
まとめ
古着・中古衣料品のHSコードは「6309.00」ですが、大事なのは番号そのものより、6309と認められる条件のほうです。
外観から中古と明らかであること、そしてベール等の包装で提示すること。
この2つを外すと新品扱いになり、税率もリスクも変わってきます。
調べるときは、Webタリフで当たりをつけ、類注で条件を確かめ、過去の教示事例を検索し、迷ったら文書で事前教示を取る。
この4ステップを習慣にすれば、申告ミスの大半は防げます。
関税の数%は、古着ビジネスの利益率にそのまま効いてきます。
正直、HSコードの確認ほど地味な作業はありませんが、14年この業界を見てきて、伸びているバイヤーさんは例外なくここが丁寧です。
皆さんの貨物が、スムーズに海を渡ることを願っています。