サワディークラップ。
バンコク在住14年、アジア古着市場アナリストの山田雄介です。
「タイで古着を仕入れたいけれど、卸業者とどう繋がればいいのか分からない」
「アポは取れたものの、当日何をどう話せばいいのか不安で仕方ない」
日本のバイヤーさんから、こんな相談を毎月のように受けます。
無理もありません。
タイの古着卸は、ホームページを持たない業者がほとんどです。
英語が通じない倉庫も珍しくなく、価格表すら存在しない世界。
日本の商談の常識が、ほぼ通用しません。
私は伊藤忠商事の繊維部門でバンコクとカラチに駐在し、独立後はタイの古着卸50社以上と取引してきました。
その経験から断言しますが、初回商談の出来は仕入れ原価を1〜3割変えます。
この記事では、アポ取りのメッセージ文面から、商談当日の立ち振る舞い、価格交渉のフレーズ、商談後のフォローまで、時系列でまるごと解説します。
近々バンコクに飛ぶ予定の方は、このページをそのまま「商談の台本」として使ってください。
商談の前に押さえたいタイ古着卸の今
卸業者は3タイプに分かれる
ひとくちに「タイの古着卸」と言っても、商談相手は大きく3タイプに分かれます。
どのタイプと向き合うかで、アポの取り方も交渉の余地もまったく変わります。
| タイプ | 代表的な場所 | 価格帯 | 初回商談の難易度 |
|---|---|---|---|
| 市場内の卸店 | チャトゥチャック市場など | 高め(観光客価格が混在) | 低い(飛び込みも可) |
| 問屋街の卸業者 | バンコク市内・近郊の問屋エリア | 中程度 | 中(アポ推奨) |
| 郊外・国境の倉庫 | バンコク郊外、ロンクルア市場周辺 | 安い(市場より30〜50%安いことも) | 高い(アポ必須) |
チャトゥチャックのような有名市場は入りやすい反面、観光客価格が混在しています。
本気で卸価格を狙うなら、問屋街か倉庫との商談が本命です。
特にカンボジア国境のロンクルア市場周辺は、世界中から届いたベール(古着の圧縮梱包)が初めて開封される場所。
ここの倉庫と直接つながれば、リーバイスのデニムが1本150バーツ(約740円)で見つかる世界が待っています。
2026年の市場環境はバイヤーに厳しい
正直に言うと、今のタイ仕入れは数年前より明らかに厳しくなっています。
2026年6月時点で、1バーツは約4.9円。
円安バーツ高の影響で、円換算の仕入れコストは数年前の1.5倍以上になりました。
タイ国内のセカンドハンド市場も拡大が続いていて、タイ人バイヤーや韓国・中国勢との競争は激しくなる一方です。
良い商品を適正価格で仕入れるには、「ふらっと行って買う」のではなく、業者と関係を作り、商談で条件を引き出す動きが欠かせません。
初回商談が仕入れ原価を決める
タイの卸業者には、定価という概念がほぼありません。
同じベールでも、相手によって提示価格が変わります。
外国人バイヤーへの最初の提示は、相場より2〜3割高いのが普通です。
NIPPON47の買い付けガイドでも、「最初に提示される価格が適正価格とは限らず、特に外国人は高めの価格を提示される」と指摘されています。
つまり、初回商談で「この人は分かっている」「長く付き合えそうだ」と思わせられるかどうかが、そのまま仕入れ原価に跳ね返ります。
だからこそ、準備が9割なんです。
アポ取りの実践フロー
業者探しはFacebookとLINEが主戦場
タイの古着卸は、ホームページよりFacebookページで情報発信している業者が圧倒的多数です。
そしてこちらのビジネス連絡はLINEが標準。
名刺にLINE IDが印刷されているのが当たり前の世界です。
業者探しの基本手順を挙げます。
- Facebookで「เสื้อผ้ามือสอง」(タイ語で古着)や「vintage wholesale Bangkok」と検索する
- InstagramやTikTokで、ロンクルア市場や古着倉庫のハッシュタグを追う
- 投稿の頻度と倉庫内の写真で、実在性と規模感を確かめる
- 良さそうな業者のページから、MessengerかLINEでコンタクトする
SNS上には、前払い金だけ受け取って音信不通になる詐欺アカウントも紛れています。
「実際に倉庫を訪問できるか」を必ず確認し、訪問を渋る業者とは取引しないでください。
倉庫を見せられない卸は、卸ではありません。
最初のメッセージで送るべき内容
最初のメッセージで大事なのは、「冷やかしではなく、買う気のあるバイヤー」だと一発で伝わる具体性です。
タイの業者は日本人からの問い合わせに慣れていますが、「値段を教えて」だけのメッセージはスルーされがちです。
面会の目的を具体的に示すのが、タイでのアポ取りの鉄則。
英語で十分通じます。
そのまま使える文面を置いておきます。
Hello! My name is Tanaka from Japan.
I run a used clothing shop in Osaka.
I'm interested in your vintage T-shirt and denim bales.
I will be in Bangkok from July 10 to 14.
Could I visit your warehouse on July 11 or 12?
My budget for the first order is around 50,000 THB.
Thank you! (LINE ID: xxxx)
盛り込むべき要素は4つです。
- 自分が何者か(実店舗かECか、どこで売っているか)
- 欲しい商品ジャンル
- 滞在日程と訪問希望日
- 初回の予算規模
予算を書くかどうかは迷うところですが、私は書く派です。
5万バーツという数字が入るだけで、業者側の対応が「観光客向け」から「バイヤー向け」に切り替わります。
日程調整で外してはいけない3つのポイント
日程調整では、タイならではの事情を3つ頭に入れておいてください。
1つ目は祭日です。
ソンクラン(タイ正月、4月中旬)の前後1週間は、倉庫も物流もほぼ止まります。
仏教の祭日や王室関連行事の日も、商談を入れないのが無難です。
2つ目はバンコクの渋滞。
市内の移動は、地図アプリの表示時間の1.5〜2倍を見てください。
郊外の倉庫なら、片道2時間コースも普通にあります。
タイでは10〜15分の遅刻に寛容な文化がありますが、信頼を作りたい外国人側は時間厳守が大原則です。
3つ目は前日確認です。
タイでは、アポを取っていても当日に「今日は無理になった、マイペンライ(気にしないで)」となることが、残念ながらあります。
前日にLINEで「明日の◯時に伺います」と一報入れるだけで、すっぽかされる確率はぐっと下がります。
商談当日の流れとタイ流マナー
服装・持ち物・挨拶の基本
服装は、清潔感のあるポロシャツにチノパンで十分です。
スーツはむしろ浮きます。
ただしビーチサンダルに短パンは「遊びに来た人」と見なされるので避けてください。
持ち物はこちらです。
- 名刺(英語表記。LINE IDを載せておくと話が早い)
- 現金(タイの卸はいまだ現金商売が基本)
- 電卓またはスマホ(価格交渉は電卓の見せ合いで進むことが多い)
- 手袋とマスク(倉庫でのベール検品はほこりとの戦い)
- 大きめのバッグ(サンプル購入分の持ち帰り用)
挨拶は「サワディークラップ」(女性は語尾がカー)。
胸の前で手を合わせるワイをしながら挨拶すれば、それだけで場の空気が和らぎます。
相手を呼ぶときは、名前の前に「クン」を付けると丁寧です。
いきなり価格の話をしない
日本の感覚だと、商談イコール条件交渉です。
でもタイでは、本題の前の雑談まで含めて商談のうち。
タイには「ナムチャイ」(思いやりの心)という言葉があります。
取引相手である前に、まず人として気持ちよく付き合えるかどうか。
こちらの業者は、それを初対面の数分で見ています。
おすすめの流れはこうです。
- 挨拶と自己紹介、軽い雑談(日本のどこから来たか、タイは何回目か)
- 倉庫や商品を見せてもらいながら、商品について質問する
- 良いと思った商品を具体的に褒める
- サンプルとして数点〜数十点を実際に買う
- その上で、ベール単位の価格や継続取引の話に入る
チャトゥチャックで20年卸をやっているソムチャイさん(仮名)は、「日本人は品質に一番うるさい。でも約束を守るし、長く買ってくれるから一番好きだ」と話していました。
日本人バイヤーへの信頼は、先輩たちが積み上げてくれた財産です。
ありがたく使わせてもらいましょう。
面子を潰すNG行動
タイは面子の文化の国です。
人前で否定されたり、恥をかかされたりすることを何より嫌います。
私は2016年、パキスタンで文化的なすれ違いから大型商談を破談にした苦い経験があります。
あのとき学んだのは、商談が壊れるのは条件が合わないときではなく、相手の誇りを傷つけたときだということ。
これはタイでもまったく同じです。
初回商談で絶対に避けたい行動を挙げておきます。
- 商品をけなして値下げの材料にする(「汚れているから安くしろ」は最悪手)
- 他の業者の価格を、目の前で引き合いに出して比べる
- 大声を出す、苛立ちを顔に出す
- 王室や宗教をジョークの話題にする
- 約束の時間に大幅に遅れる
もう1つ、タイの人は商談中に沈黙があっても気にしません。
返事を急かさず、ゆったり構えるのが正解です。
価格交渉の実践テクニック
まず相場を頭に入れる
交渉の大前提は、相場を知っていることです。
相場を知らない相手には、業者も強気の価格をぶつけてきます。
2026年時点の大まかな目安をまとめました。
中身のグレードや業者によって大きく変わるので、あくまで出発点の数字として見てください。
| 商品 | 価格目安(バーツ) | 円換算(1バーツ=約4.9円) |
|---|---|---|
| Tシャツ系のキロ売り | 1kgあたり300バーツ前後〜 | 約1,500円〜 |
| ノーブランド中心のベール(100〜300着) | 5,000〜10,000バーツ | 約2.5万〜4.9万円 |
| ブランド・ヴィンテージ系ベール | 20,000〜30,000バーツ | 約9.8万〜14.7万円 |
為替の影響で、円換算では「思ったより安くない」のが今のタイです。
だからこそ、このあとの交渉カードが効いてきます。
交渉カードは「数量」と「継続」の2枚
タイの価格交渉で値引きを引き出すカードは、実質2枚しかありません。
1枚目は数量です。
「1ベールならこの値段。じゃあ3ベールならいくら?」という聞き方で、まとめ買いを条件に単価を下げてもらいます。
ロンクルア周辺の倉庫では、大きいロットを買う意思を見せてキロ単価を下げるのが定石です。
2枚目は継続です。
「毎月買いたい。最初は小さく始めて、良ければ増やす」と伝えると、業者は初回の利幅を削ってでも関係を取りに来ます。
契約書より人間関係を重視するタイでは、この継続の約束が日本以上に強力なカードになります。
逆に、1枚単位の細かい値切りや、相場の半額からふっかける交渉は逆効果です。
面子の文化では、「お互いが気持ちよく譲り合った」という着地が何より大事。
値引き幅の目安は、提示価格から1〜2割と考えておくと外しません。
実際に使える交渉フレーズ集
タイ語のフレーズをいくつか覚えていくと、場の空気が一気に変わります。
発音が多少怪しくても、笑顔で言えば十分通じます。
| フレーズ | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| タオライ・クラップ? | いくらですか? | 価格を聞くとき |
| ペーン・パイ・ノイ・クラップ | ちょっと高いですね | 提示価格への第一声 |
| ロット・ノイ・ダイマイ・クラップ? | 少し安くしてもらえますか? | 値引きの打診 |
| アオ・アンニー・クラップ | これをください | 購入の意思表示 |
| ジャ・マー・イーク・クラップ | また来ます | 商談の締め、関係づくり |
語尾の「クラップ」は男性の丁寧語で、女性は「カー」に変えてください。
最初の「タオライ・クラップ?」をタイ語で言えた瞬間、相手の顔がふっと緩む。
あの瞬間のために覚える価値があります。
それでも下がらないときの引き際
希望価格まで下がらないことも、当然あります。
そのときは、無理に押し切らないでください。
「今日はサンプルだけ買って、また来ます」と笑顔で引くのが正解です。
タイの業者は、ゴリ押しするバイヤーより、気持ちよく引いて本当にまた来るバイヤーを信用します。
実際、私の知る日本人バイヤーで一番良い条件を引き出している人は、初回は相手の言い値に近い価格で小さく買い、2回目以降に条件を良くしていくスタイルです。
初回商談のゴールは最安値ではなく、「2回目のアポ」。
ここを間違えないでください。
商談成立後にやるべきこと
支払い・受け渡し条件は必ず記録に残す
商談がまとまったら、その場で条件を整理します。
タイの卸取引では正式な契約書を交わさないことも多いので、最低限の記録を自衛のために残してください。
- 商品内容・数量・単価・合計金額
- 前払い金の有無と金額(全額前払いはなるべく避ける)
- 受け渡しの日時と場所(倉庫渡しか、ホテルや転送業者への配送か)
- 連絡先(LINE交換は必須)
おすすめは、合意内容をその場でLINEのメッセージにして送り、相手に「OK」と返してもらうことです。
これだけで「言った言わない」のトラブルがほぼ消えます。
ベールの中身は開封時に揉めやすいので、購入時に外装と中身の写真を撮っておくのも忘れずに。
日本への輸送と通関の基本
仕入れた古着を日本へ送る方法は、量で決まります。
数十kgまでなら国際宅配便、ベール数個以上なら船便の混載が現実的です。
通関で知っておきたいのは、古着のHSコードが6309.00だということ。
使い古しであることが外観から明らかで、ベールやばら積みで梱包されていることが条件です。
革製品が含まれると古着の定義から外れるため、ベールに革ジャンが混ざっていないかは現地で確認しておきましょう。
関税はWTO協定税率で5.8%、課税価格20万円以下なら簡易税率5%です。
日タイEPAの特恵税率を適用できれば、無税になるケースもあります。
詳しい手続きは税関の輸出入手続のページで確認するか、通関業者に相談してください。
タイ側の貿易制度や規制の最新情報は、JETROのタイ情報ページがいちばん確実です。
制度は変わるものなので、渡航前に一度目を通しておくと安心です。
2回目以降につなげるフォローアップ
商談の本当の勝負は、帰国後に始まります。
日本に着いたら、LINEで「無事に届いた」と写真付きで一報。
販売が始まったら、「あなたの商品が日本でこんなふうに売れている」と店頭やECの写真を送ってみてください。
たったこれだけで、業者のあなたを見る目が変わります。
次の訪問では、奥にしまってある良い商品から見せてくれるようになる。
14年こちらでビジネスをしてきて、これほど費用対効果の高い営業を他に知りません。
なお、初回からひとりで倉庫を回るのが不安な方は、NIPPON47のような現地サポート付きの買い付けサービスを最初の1回だけ使い、商談の流れを体で覚えてから単独交渉に移るのも賢いやり方です。
大事なのは、最終的に業者と直接の信頼関係を作ること。
そこへの道筋は、自分に合ったものを選べば大丈夫です。
まとめ
タイの古着卸との初回商談フローを、時系列でおさらいします。
- 業者はFacebookとLINEで探し、予算と日程入りの具体的なメッセージでアポを取る
- ソンクランなどの祭日と渋滞を避けて日程を組み、前日に必ずリマインドする
- 当日はワイの挨拶から。いきなり価格の話をせず、関係構築を先に
- 交渉カードは「数量」と「継続」の2枚。面子を潰す値切りは厳禁
- 合意条件はLINEで記録に残し、帰国後のフォローで次につなげる
タイの商談は、テクニックより「この人とまた会いたい」と思われるかどうかで決まります。
初回商談のゴールは最安値ではなく、2回目のアポ。
ナムチャイの国タイでは、誠実さがそのまま仕入れ条件になって返ってきます。
あなたの最初の商談が、長い付き合いの始まりになることを、バンコクから願っています。
コップンクラップ!