アッサラーム・アライクム。
バンコク在住の貿易コンサルタント、山田雄介です。
パキスタンの古着仕入れに興味はあるけれど、「実際いくらかかるの?」が分からなくて踏み出せない。
そんな声を、日本のバイヤーからよく聞きます。
私は伊藤忠商事の繊維部門でカラチに2年間駐在し、現在はフリーランスの貿易コンサルタントとしてアジアの古着市場に携わっています。
カラチのKEPZ(輸出加工区)を何十回と訪れ、現地の業者と直接取引してきました。
この記事では、パキスタンで古着ベールを仕入れた場合にかかる「全コスト」を、ベール価格・国際送料・関税・隠れコストに分けて、具体的な数字で公開します。
最後に、ベール10個を日本に届けるまでのシミュレーションも用意しました。
仕入れ判断の参考にしてください。
目次
パキスタンが古着の世界的ハブになった背景
世界中の古着がカラチに集まる仕組み
パキスタンは、古着の輸入量で世界トップクラスの国です。
2024-25年度の古着輸入額は約5億1,100万ドルに達しました。
なぜこれほどの古着がパキスタンに集まるのか。
理由はシンプルで、「選別拠点」としての人件費の安さと技術力です。
アメリカやヨーロッパの回収センターで集められた古着は、巨大なコンテナ単位でカラチ港へ運ばれます。
現地の選別工場で熟練作業員が1日数千枚の衣類を目視と手触りで仕分け、品質グレード・ジャンル・サイズ・性別ごとにベールへと梱包されます。
この精密な手作業の選別が、低コストで高品質なベールを生み出す源泉になっています。
KEPZ(カラチ輸出加工区)の役割
パキスタンで古着を仕入れるなら、KEPZ(Karachi Export Processing Zone)は避けて通れません。
カラチの無税ゾーンに位置するこの輸出加工区には、数百の古着倉庫が密集しています。
KEPZには「選分屋」と呼ばれる業者が多く、世界中から輸入した古着を仕分けして再販売しています。
私がカラチ駐在時代に足繁く通った場所でもあり、倉庫をひとつひとつ回りながら商品を確認する作業は、体力勝負の一面もあります。
日本のバイヤーにとっての最大の魅力は、仕分けされた古着を市場に出る前の段階で直接購入できること。
中間マージンが少ない分、仕入れ単価を大幅に抑えられます。
ベール1個あたりの仕入れ価格を徹底解剖
ベールの基本スペック
まず、ベールの基本を押さえましょう。
- 重量:30〜50kgが標準(45kg規格が最も一般的)
- 梱包:古着を高圧プレスで圧縮し、PPバンドで固定
- 枚数:1ベールあたり約200〜300枚
- 容積:圧縮により元の約30%まで縮小
ベールは基本的にジャンル別にまとめられています。
Tシャツベール、ジーンズベール、スウェットベール、ミックスベールなど、目的に応じて選択可能です。
品質グレード別の価格相場
パキスタンの古着ベールには品質グレードがあります。
業者によって呼び方は異なりますが、大まかにA級・B級・C級の3段階です。
| グレード | 状態 | 45kgベール価格(目安) | 1着あたり目安 |
|---|---|---|---|
| A級 | 目立つ汚れ・破損なし。そのまま販売可能 | 20,000〜30,000円 | 80〜150円 |
| B級 | 軽微な汚れ・使用感あり。洗浄で販売可能 | 12,000〜20,000円 | 50〜80円 |
| C級 | 汚れ・破損あり。ウエス混入率高め | 8,000〜12,000円 | 30〜50円 |
A級のベールはそのまま店頭に並べられるレベルですが、数量は限られます。
一方、C級はウエス(端切れ・雑巾向け)が2〜3割混入することもあるので、販売可能枚数で計算し直す必要があります。
商品カテゴリ別の単価一覧
ベール買いではなく、KEPZ倉庫内で1着ずつ選ぶ「ピック買い」の場合、カテゴリ別の単価はおおむね以下の水準です。
| カテゴリ | ピック買い単価(目安) |
|---|---|
| Tシャツ | 約400円 |
| シャツ | 約400円 |
| スウェット・パーカー | 約550円 |
| パンツ・ジーンズ | 約600円 |
| 軽量アウター | 約500〜800円 |
| 重量アウター(ミリタリー等) | 約800〜1,300円 |
ピック買いは1着ずつ品質を確認できるため、販売時の利益率は高くなります。
ただし、選別に時間がかかるため大量仕入れには向きません。
ベール買いは単価を極限まで下げられる反面、ウエス混入のリスクを受け入れる必要がある。
どちらを選ぶかは、ビジネスの規模感と販売チャネル次第です。
パキスタンから日本への送料:輸送手段別の比較
海上輸送(FCL:コンテナ貸切)のコスト
大量に仕入れるなら、海上輸送のFCL(Full Container Load)が最もコスト効率に優れています。
カラチ港から東京港までのコンテナ輸送の目安は以下のとおりです。
- 20フィートコンテナ:約500〜800ドル(約75,000〜120,000円)
- 40フィートコンテナ:約400〜700ドル(約60,000〜105,000円)
海運市況によって大きく変動しますが、パキスタンから日本への荷動きは比較的少ないため、運賃は他のルートより割安な傾向にあります。
20フィートコンテナには45kgベールが約150〜180個積載できます。
40フィートコンテナなら約300〜350個。
コンテナ1本を埋められるなら、1ベールあたりの送料は500〜800円程度まで下がります。
輸送日数はカラチ港から東京港まで約10〜14日。
通関・国内配送を含めると、ドアツードアで3〜4週間が目安です。
混載便(LCL)のコストと判断基準
コンテナ1本を埋めるほどの量がない場合は、LCL(Less than Container Load=混載便)を利用します。
複数の荷主の荷物を1つのコンテナに「相乗り」させる方式です。
LCLの料金は、1CBM(立方メートル)あたり、あるいは1トンあたりの単価で計算されます。
カラチ→東京の場合、1CBMあたり約8,000〜15,000円が相場です。
45kgの古着ベールは圧縮されているので、1個あたりの容積はおよそ0.1〜0.15CBM。
LCLで10ベール送った場合、送料は約12,000〜22,500円、つまり1ベールあたり1,200〜2,250円ほどです。
FCLとの分岐点は、貨物量が約10CBMを超えるかどうか。
ベールに換算すると70〜100個が目安になります。
それ以下ならLCL、それ以上ならFCLを検討するのが基本戦略です。
航空便は使うべきか
結論から言えば、通常の古着仕入れで航空便を選ぶ理由はほぼありません。
航空便の料金は1kgあたり1,500〜2,500円。
45kgのベール1個を空輸すると、送料だけで67,500〜112,500円かかります。
ベール本体の価格を上回ってしまう。
ただし、ヴィンテージ品やハイブランドのデッドストックなど、1着あたりの販売価格が数万円を超えるアイテムに限っては、航空便のスピード(3〜5日)が意味を持つ場面もあります。
日本の輸入関税・消費税の仕組みと計算方法
古着に適用されるHSコードと関税率
日本に古着を輸入する際、適用されるHSコードは「6309.00」(中古の衣類その他の物品)です。
税関の実行関税率表で確認できます。
適用される関税率は、輸入元の国や条件によって異なります。
- WTO協定税率(一般):5.8%
- 簡易税率(課税価格20万円以下):5%
- 特恵税率・EPA税率:条件を満たせば無税(0%)
パキスタンはWTO加盟国なので、通常は5.8%が適用されます。
ただし、後述するように無税になるケースもあります。
CIF価格から関税・消費税を計算する3ステップ
輸入時にかかる税金の計算は、次の3ステップで行います。
JETROの税額計算ガイドにも詳しい解説があります。
まず、CIF価格を算出します。
CIF価格とは「商品代金 + 送料 + 保険料」の合計額です。
次に、関税額を計算します。
CIF価格 × 5.8% = 関税額(100円未満切り捨て)。
最後に、消費税を計算します。
(CIF価格 + 関税額)× 10% = 消費税(内国消費税7.8% + 地方消費税2.2%)。
具体例を出します。
ベール10個(45kg × 10 = 450kg)をLCLで輸入した場合。
- 商品代金:200,000円(45kgベール10個 × 20,000円)
- 送料:18,000円
- 保険料:2,000円
- CIF価格:220,000円
- 関税(5.8%):12,700円(220,000 × 0.058 = 12,760 → 100円未満切り捨て)
- 消費税(10%):23,200円(232,700 → 1,000円未満切り捨て → 232,000 × 0.1)
この例での関税+消費税の合計は、約35,900円になります。
パキスタン古着で関税ゼロになる条件
パキスタンは日本の特恵関税制度の対象国です。
そのため、「原産地証明書(Form A)」を取得すれば、関税がゼロになる可能性があります。
ただし、古着の場合は注意が必要です。
パキスタンで仕分け・ベール化された古着の多くは、元々アメリカやヨーロッパから輸入されたもの。
つまり「パキスタン原産」とは言い切れないケースが大半です。
原産地証明書が発行されるのは、パキスタン国内で十分な加工・変換が行われたと認められる場合に限られます。
実際には、ベール化だけでは原産地の変更と認められないことが多いのが現実です。
確実に特恵関税の適用を受けたい場合は、パキスタン国内で生産された衣類(新品を含む中古品)に限定するか、通関業者と事前に相談して適用可否を確認してください。
見落としがちな「隠れコスト」一覧
通関手数料・フォワーダー手数料
日本側で発生する諸費用を整理します。
- 通関手数料:11,800円(課税価格20万円超の場合)
- 輸入取扱料:10,000〜30,000円/件
- 税関検査料:5,000〜10,000円(検査対象になった場合)
- D/O(デリバリーオーダー)発行料:2,000〜10,000円
これらはフォワーダー(国際物流業者)に委託した場合の費用です。
初回の輸入であれば、合計で40,000〜60,000円程度を見込んでおくのが安全です。
取引回数が増えてフォワーダーとの関係ができると、手数料を交渉で下げられるケースもあります。
現地エージェントの費用
パキスタンでの買い付けには、現地エージェント(パートナー)の存在がほぼ必須です。
言語の壁、商習慣の違い、治安面のリスクを考えると、ひとりでKEPZの倉庫を回るのは現実的ではありません。
エージェント費用の相場は1日あたり15,000〜25,000円。
倉庫の案内、通訳、価格交渉の仲介、輸送の手配まで含みます。
10日間の買い付けなら150,000〜250,000円。
ここに航空券(往復90,000〜250,000円)と宿泊費(1泊3,000〜8,000円)が加わります。
渡航コストだけで30万〜50万円は覚悟が必要です。
ただし、日本にいながらパキスタンのベールを購入する方法もあります。
国内の古着卸業者やオンライン取引を活用すれば、渡航なしでベールを手配できます。
当然、仲介マージンが上乗せされるため単価は高くなりますが、渡航コストと天秤にかけて判断してください。
国内配送・検品・洗浄のコスト
ベールが日本の港に届いた後も、コストは発生し続けます。
- 国内配送:港から倉庫まで5,000〜15,000円(距離・量による)
- 検品・仕分け:自分でやれば人件費のみ。外注する場合は1着30〜50円
- 洗浄・アイロン:1着50〜100円(クリーニング業者利用の場合)
- 補修(ボタン付け・穴補修等):1着100〜300円
これらは「販売可能な状態にするためのコスト」です。
ベール買いでは避けて通れない工程なので、必ず原価計算に入れてください。
【実例シミュレーション】ベール10個の総コスト計算
仕入れから日本到着までの全内訳
B級の45kgベールを10個、LCLで日本に送る場合の具体的なシミュレーションです。
| 費用項目 | 金額(税込) |
|---|---|
| ベール購入費(20,000円 × 10個) | 200,000円 |
| 海上送料(LCL) | 18,000円 |
| 保険料 | 2,000円 |
| 関税(CIF 220,000円 × 5.8%) | 12,700円 |
| 消費税(10%) | 23,200円 |
| 通関手数料 | 11,800円 |
| 輸入取扱料 | 15,000円 |
| D/O発行料 | 5,000円 |
| 国内配送 | 10,000円 |
| 洗浄・検品(1着50円 × 約2,500着) | 125,000円 |
| 合計 | 422,700円 |
ベール10個に含まれる衣類は約2,500枚。
そのうちウエスや販売不能品が15%あると仮定すると、販売可能枚数は約2,125枚です。
1着あたりの原価と損益分岐点
上記の計算から、1着あたりの原価を算出します。
422,700円 ÷ 2,125枚 ≒ 約199円/着
つまり、1着あたり約200円が原価ラインです。
フリマアプリやオンラインショップで1着800〜1,500円で販売する場合、粗利は600〜1,300円。
粗利率にして約75〜87%。
古着ビジネスの利益率が高いと言われる理由がここにあります。
ただし、この計算は「すべてが売れた場合」の理想値です。
実際には売れ残りや値下げ販売も発生するため、販売可能枚数の70〜80%が実売ベースと考えておくのが堅実です。
コストを抑えるための実践テクニック
発注量の最適化と現地関係の構築
パキスタンのビジネス文化では、長期的な人間関係が価格交渉の最大の武器になります。
「インシャーアッラー(神の意志により)」という言葉に象徴されるように、現地の商人は短期的な利益よりも長く付き合える相手を好みます。
初回から値切り倒すのではなく、数回の取引を経て信頼を積み重ねることで、自然とベール単価が下がったり、品質の良いベールを優先的に回してもらえるようになります。
発注量の面では、コンテナ1本をまとめて発注できれば送料を大幅に圧縮できます。
個人では難しくても、同業者と共同仕入れする方法もあります。
輸送手段の使い分け
FCLとLCLの分岐点は約10CBM(ベール70〜100個)ですが、ベールの圧縮率が高い古着の場合、重量課金のほうが安くなるケースもあります。
複数のフォワーダーから相見積もりを取り、CBM課金と重量課金の両方で比較するのが鉄則です。
また、タイ経由のルートを使う手もあります。
パキスタンで選別されたベールは、シンガポール経由でタイの倉庫に転送されるルートが確立しています。
タイからの輸送なら日タイ経済連携協定(JTEPA)の活用で関税面のメリットが出る場合もありますが、古着の原産地問題はタイ経由でも同様に残る点は注意してください。
為替リスクへの対応
パキスタンルピー(PKR)は変動が大きい通貨です。
2025〜2026年の対円レートは1円 ≒ 1.75〜1.99 PKRの範囲で推移しています。
現地での支払いは米ドルまたはパキスタンルピーが一般的です。
ドル建て取引であれば為替リスクはドル/円のみに集約できるので、管理しやすくなります。
急激な円安局面では仕入れコストが膨らみます。
まとまった仕入れを行う場合は、為替予約やFX口座を使ったヘッジも選択肢に入ります。
まとめ
パキスタン古着仕入れのコスト構造を整理すると、大きく4層に分かれます。
ベール購入費、国際送料、関税・消費税、そして国内でかかる諸経費。
45kgのB級ベール10個をLCLで輸入した場合の総コストは約42万円。
1着あたりの原価は約200円で、適切な販売チャネルがあれば十分な利益を確保できる水準です。
コスト管理のカギは、「何にいくらかかっているか」を正確に把握すること。
この記事で紹介した数字をベースに、自分のビジネスモデルに合わせてシミュレーションしてみてください。
パキスタン古着仕入れは、情報さえあれば決してハードルの高いビジネスではありません。
現地の人々との信頼関係を大切にしながら、一歩ずつ進めていただければと思います。